2014年1月30日木曜日
「一の上に 寝る」・・・
前回の渡辺隆夫つながりで一本を紹介しよう。
渡辺隆夫は吉田健治作品集『青い旗』(抒情文芸刊行会)の鑑賞文に以下のように記している。
一の上に 寝る
これには色々な光景が浮かんで来る。板子一枚下は地獄の船乗りさんから、硬いベッド に横たわる遺体まで。人生の色々な局面で、我々人間は硬い板の上に横たわる。しかし、 イワシ以下の雑魚に至っては、擂り身となってカマボコ板に横たわることもある。人間は幸 せな動物なのだ。
突然、イワシが登場するには訳がある。ここ鑑賞文の前に一句、「空のイワシをトランペットで踊らせろ 健治」が引用されているからだ。
吉田健治(吉は下の一が長い吉です)は知る人ぞ知るのゴム毬論の山村祐の志をついで短詩サロン発行者である。1939年、東京・荏原区(現・品川区)生まれ。計314編を収めた『青い旗』は『孤塔』に続く第二作品集。跋文を寄せている谷口慎也は吉田健治について次のように述べている。
自分の作品を俳句として、あるいは川柳として読んでもらっても結構だ。すなわち読みの 窓口は ご自由にということなのだ。だがそれは、自分は俳句的でありながらも俳句でない もの、川柳的で ありながらも川柳でないものを書いているのだという、いわば痛みを伴な う、彼の逆説的な意思の 表明でもあるのだ。このふたつのジャンルから疎外され、傷つき ながらも、それでもなお一行の詩 として自立するものを書き続けるという強靭な意思。こ の実に困難な詩的状況を生き抜いてきたのが吉田健治という書き手であり、それが今回 の作品集『青い旗』として結実しているのである。
作品集全体は作品Ⅰ、作品Ⅱの章立で、作品Ⅱの章は、連作、群作の作品、とりわけ、実兄の死や東日本大震災、また、自らの病との闘いなどを「生老病死吽」というテーマで書き、収録したあたりは感慨深いものがある。
立春の光の捧に射ぬかれる 健治
十二月紐が一本垂れてくる
とんてんとんてん病気を叩いて鞣している
点滴 に わたしの空 が吊って ある
生きのびて命一秒呼吸する
殴られた空気は青い旗立てる
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