2015年6月9日火曜日
武馬久仁裕「白桃はチェルノブイリを夢想する」・・・
現代俳句文庫『武馬久仁裕句集』(ふらんす堂)は、武馬久仁裕の句業を一望するには、よく彼の相貌を伝えていると思う。たった一作品だが、多行の俳句やテーマによる連作の句(こうしたスタイルの句数の限定されたなかには収めにくいものだが)を収め、かつ『集外集』(三句集以後未収録作品)として、最近作と思われる未刊行句集のかたちを創っている。そして、ただ一枚だが「諸仏は、わずがに首を傾げ、現世の憂いを消し去ろうとしていた。二〇一一年七月、ポロブドール」の添え書きのある彼のデッサン。ほかに「小川双々子の俳句と言葉」「雨と軍港」という評論を収録。というわけで、一冊のコンパクトなスタイルの一集にしては、彼の多才ぶりを思わせる一本になっていて、じつに手頃だ。
解説はかつての双々子師の同門であった山本左門と歌人の依田仁美。その解説でも指摘されていることだが、武馬久仁裕の散文もまた見事なもので、第三句集『玉門関』は「散文と俳句との見事なコラボレーションの成立である」(山本左門)としているあたり、この文庫においては、その散文が十分に読めないのは少しさびしい。
彼の実業の顔は、黎明書房社長(師であった小川双々子の後を継いで)である。「船団」会員でもある彼は坪内稔典「船団」の著作もいくつか出版している。愚生も『教室でみんなと読みたい俳句85』(黎明書房)では、ほとんど愚生の自由に書かせていただいたことを思い出す(願わくば一冊でも多く売れれば彼に少しでも報いられるのだが・・・)。
彼はほかに「船団」ホームページの書評欄担当の一人で、この選書もなかなかいい。最近知ったのだが、自身でもホームページ「円形広場ー俳句+ART」をやっている。
武馬久仁裕(ぶま・くにひろ)、1948年愛知県生まれ。
何という遅い歩みだ春・昭和 久仁裕
大空に脳中の春絞り出す
春の道歩き疲れた獏と会う
階段を上がる人から影となり
玉門関月は俄に欠けて出る
「地理学家珈琲館(ジオグラファー・カフェ)に俺はいるぞ。」と双々子
セシュウムの野にひっそりと秋の雨
初夏の男女は二足歩行する
光年の先の私の秋桜
遠ざかりつつある鶏は死ぬだろう
ネムノキ↑
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