森田廣(もりた・ひろし)は1926年島根県安来市生まれ。九十歳翁だ。健在である。
句集『樹』(霧工房)の「あとがき」に、
かつては未熟の歩みを重ねていたとしても、句想の飛躍をのぞむことが出来るという多少の自負もあった。が、九十歳の寿齢にめぐまれた今、感覚的な弾力がかなり乏しくなっているのは否めない。然し、諦念のはたらく一方で、内なる問いかけはおのずから自在性を得ているという思いもあり、たとえて、古木のさくらの枯れた風情を見せつつも、なお葉桜のそよぐはなやぎをもつ姿に通う意識と言ってもいいように思われる。
(中略)
混沌の思いは尽きないが、最晩年と言っても差し支えない只今の句業に、何程かの実りがあれば幸いである。なお、かなづかい表記は現代かなづかいに依っているが、例外として「いづも」は歴史的かなづかいとした。(中略)
二〇一六年 初春
先師福島小蕾の句「われひとや出雲純系雪消えゆく」をこころに。
と、しるしている。以下にいくつかの句を挙げさせていただく。
尽未来谷間の墓に春立ちぬ 廣
愛でらるる阿保は絶えて稲の道
夜時雨を近づくは聖赤ん坊
オオクニヌシという大闇や栗の花
母恋の陰恋となる星月夜
産土神(うぶすな)の深股妻も髪に霜
かぁんと鳴る寒林かわが首か
はんにゃはらみつ窪眼にあふれ寒昴
トケイソウ↑
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