2016年7月16日土曜日
照井三余「朝から酒さるすべりに叱られる」(『七草の孤心』)・・・
照井三余(てるい・さんよ)は「豈」同人になって、一年ほど。が、しかし、句歴は長い。今は故人となった酒井流石や小宅容義、嶋野國夫に学び師事してきている。現在は「夢座」「蛮」の同人でもあり、「垂人」にも関わっている。それもこれも俳句に対する探求心のなせるところらしい。つまり、若き日に師事した結社誌がことごとく終刊、廃刊になり、実のところはねぐらが定まらないデラシネのような按配になってしまったのだ。
それでも、いよいよ期するところがあって、これまでの多くの句を棄てながらも第一句集を上梓することに決めたらしい。
照井三余は1944年、北海道生まれ。句の背後には故郷への思いが滲む句がある。
黒かった雪 痛かった雪 三余
霰に目覚め嵌め殺しの故郷
腰振って川太くなる眩しさよ
気嵐を抱く船団の男粋
故郷の浜侵食に夏果てる
ふるさとの薫風が背に重い
ところで、三余という俳号は、もとは父の号らしい。だから俳号に限って言えば二代目・三余である。それは「魏志王粛伝」にある読書に利用すべき三つの余暇、すなわち冬(年の余)と夜(日の余)と陰雨(時の余)をさして言うことらしい。ただ、彼自身に言わせると、よい妻がいて、よい子どもたちに恵まれ、よい仲間に恵まれている、三つの余剰の幸せのこと、だと本心から言う。
本句集名『七草の孤心』(ことこと舎)のもとになった句は、
七草の粥に孤心をうすめたり
である。本句集造本全体の構想、装幀、表紙写真などのもろもろは「夢座」の銀(しろがね)畑二が尽力した。序文ははずかしながら愚生、跋文は、伊達家の末裔・伊達甲女。跋によって初めて知ったのだが、著者はかつて「豆腐の三余」と綽名されていたらしい。ちなみに所収の豆腐の句を挙げておこう。
春水に浮く扁平な手と豆腐
春半分豆腐半分割った朝
自転車の豆腐の震え夏近し
薔薇の庭から豆腐屋を止める
湯豆腐を左右におとす酔の箸
モミジアオイ↑
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