『白鳥句集』(深夜叢書社)は先に評論集『女神たち 神馬たと 少女たち』を上梓した松下カロの白鳥づくしの句集である。だから、ブログタイトルに挙げた「鳥帰る空に」の句は「白鳥の空に」と書かれても不思議ではない句である。そのあたりの事情については、坪内稔典の以下の帯文が見事に言い表していよう。
興福寺の阿修羅像、チャップリン、そしてヤマトタケル、チャイコフスキー、若山牧水・・・・・。彼らは白鳥だった。そして今、松下カロという白鳥が俳句シーンに降り立った。
というように、この句集は白鳥で埋め尽くされているのだが、実は「白鳥」の部分に「松下カロ」と入れれば、それらの句が見事に著者のさまざまな分身であるのかも知れない、と思わせる。例えば(原句は旧字使用)、
乱心の白鳥にして人の妻 カロ
白鳥が人を憐れむ国境
セーラー服も白鳥も汚れけり
白鳥死ぬ日の金色の水溜り
白鳥がうつかり零す貝ボタン
一羽より二羽の白鳥淋しけれ
白鳥も薄暮に尖る乳房もち
白鳥のたましひ濡らすオキシフル
白鳥に黒髪なびく祝祭日
白鳥は冬季であるからだろうか、季をたがえる場合は「鳥帰る」「雛孵る」「鳥雲へ」などと配慮されているようにも・・・とはいえ、すべてを白鳥にしてしまうことも可能だったろう。これも
「未見の言葉を捜すことに熱中」(「あとがき」)したゆえならば肯うことにしよう。
松下カロ・1954年東京都出身。
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