2016年9月7日水曜日
小森邦衞「黴の世や眼つむるほかのなき日々の」(『漆榾』)・・・
小森邦衞『漆榾』(角川書店)。序文は黒田杏子。句集名となった句は、
尉(じょう)となりても匂ひけり漆榾 邦衞
漆芸家ならではあろう。当然とはいえ、漆芸に関する句にはこと欠かない、それが他の誰ともまぎれることない真骨頂である。「あとがきにかえてのご挨拶」のなかで、以下のように記している。
漆芸の恩師松田権六(ごんろく)先生からのご指示ご提案で続けておりました毎日の「図案日誌」に心をこめて取り組むことと同様に、休まず毎日五分から十分だけ句作に集中することで、世間の煩わしいと思える事から離れることが出来、同時に仕事にも余裕が出てきて、毎日がありがたい方向に進んで行ってくれたように思われます。次第に俳句があってよかったと思える日々となったのです。
愚生は、漆芸については全く手ぶらなのであるが、中に「殺し搔き」の句がある。どのようなものか、その注に「殺し搔き=漆液の採集方法で一本の木から一年で搔きとってしまい、その後切り倒す(養生搔きもある)。とあって次の句がある。
殺し搔き終へし漆木秋の虹
漆の木を倒さずにおく養生搔きにはホッとする。
以下にいくつかの句を挙げておこう。
この世とは今ゐるところ冬の虹
こんなところで出るな出るなよ大くさめ
藷堀りし夜の仕事の手の震へ
我はなぜ我に生れしや漆搔
波氣都歌(はけつか)に刷毛奉り石蕗の花
波氣都歌=上質の漆刷毛は人の毛髪を使用する。使い
古した刷毛などを供養する塚
福は内何度も言ふは愚かなり
天職を辞すは死ぬる日花吹雪
冬入日万策尽きしことを知る
小森邦衞1945年石川県輪島市生まれ。
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