2016年10月18日火曜日
小南千賀子「原子炉を抱き眠らない山がある」(『晩白柚』)・・・
小南千賀子第三句集『晩白柚(ばんぺいゆ)』(東京四季出版・私家版)、その「あとがき」の書き出しには、
三月十九日、NHK青山荘にて「阿部鬼九男を偲ぶ会」が催され、名古屋の旧「環礁」の方々と出席した。
阿部氏は、初学の拙句〈肉親になかなか効かぬ血止草〉に「この人は俳句が解りかけてきた」と評して、第一句集『半夏』の栞文を書いて下さった。それが俳句を続けている原点の気がする。
とあった。句歴も長いが、各章には自身の描いた絵も載っている。多才の人なのかも知れない。愚生にとっては「俳句空間」(弘栄堂書店版)の新鋭作品集に投句し、後に、アンソロジー「俳句空間」新鋭作家集『燦』に参加していただいた俳人である。本句集の第三章「煙茸」の中扉に赤い背景に描かれている白曼珠沙華ではないが、アンソロジー『燦』では100句全句が彼岸花を詠んだ句群だった。
同書の解説に林桂は、
小南は、全句「彼岸花」を作品に束ねるイメージに使いながら、むしろそれ故に作品世界を乱反射させている。さまざまな方向へ散ってしまいそうな風船を束ねる紐のように「彼岸花」は存在している。
と評している。このアンソロジーには、現在、小説家としても活躍中の倉阪鬼一郎や「円錐」の今泉康弘、「豈」の宮﨑二健、「未定」の山口可久実なども参加していた。
また、句集『晩白柚』には岐阜県中津川市にある二基の小南千賀子の句碑も掲載されている。句は、
恵那山を背負つて来たり蝸牛 千賀子
恵那くもり笠置山晴れ茸採る
因みに略歴には1934年、岐阜県生まれとあった。
ともあれ、いくつかの句を愚生の好みで挙げておこう。
風景をゆっくり廻す桃の花
蟬の声やむことはなし被爆の木
瀬戸際に遺してゆきし夏毛かな
蛇穴を出て戦場へ行く気なり
銀河まで乗り換えなしのバスに乗る
はんざきの何処へ触ってやればいい
八月の推敲はまだ終らない
こわれやすい国家に住んで芹薺
十二月八日の箱に蓋が無い
戦争を知らぬままに煮凝りし
激戦のあった所へ水を打つ
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