2017年3月12日日曜日

増田まさみ「天涯をはみだす橇と人馬かな」(『遊絲』)・・



増田まさみ句集『遊絲』(霧工房)は、著者第三句集、「あとがき」に「収録した作品二五〇句は、すべて詩歌文藝誌『ガニメテ』に掲載(2010~2016)されたものである」という。

帯文に、「《穴》は再生のシノニムである。」とあり、それに添うように各章題はⅠ「水の穴」、Ⅱ「蟬の穴」、Ⅲ「風の穴」とある。

  蟬穴に星流れゐるこひびとよ     まさみ
  蟬穴も火口もさみし歯を磨く
  密葬のあとの眩しき蝉の穴
  見失う蟬穴ひとつ御魂ふたつ
  
再生とは死をはらむものなのか。『遊絲』の集名は、

  かげろうや太古を奔るわが屍

に拠っているのだろうか。
余談だが、かつて増田まさみが「日曜日」という同人誌を出していた頃、攝津幸彦が「豈」と合併して「豈の日曜日」を出さないか、ともちかけたとか(冗談だとおもうが・・)。その後「日曜日」が廃刊して冨岡和秀、亘余世夫などが「豈」同人になってくれたのもそうした縁があったからかも知れない。

追悼句が2句、

    悼・たかぎたかよし
  慟哭の蚯蚓を見たり路傍の死
    悼・流ひさし
  一月の真空をいく羽音あり

たかぎたかよしの詩の「蜻蛉」の一行に、

 ここに落とされた命の慟哭

があり、それを踏まえている。あるいはまた、


  鷗忌や荒海ばかり抱くまくら

「鷗忌」は三好達治の忌日、その詩「鷗」は、「ついに自由は彼らのものだ」に始まり、同じ一行で終る。

ともあれ、久しぶりに読む増田まさみ調の句、愚生好みの句をいくつか挙げておきたい。
  
  人間は戦争がスキほたるが好き
  春霖や遥か人馬を濡らしたか
  虚貝(うつせがい)ごまんの春を死に代わり
  天上も溺るる海にすぎざらむ
  くちびるの水位は寒し天の川

ちなみに発行所の霧工房は自身の工房、最近は句集の装幀者としての増田まさみをよく目撃した。本集の表紙画は、川柳作家の墨作次郎。
  





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