2017年6月10日土曜日
久光良一「使いきらぬ一日がもう暮れかける」(『熱い血』)・・
久光良一第三句集『熱い血』(文學の森)、集名は次の句に因む。
蕾ふくらむ、まだ熱い血が残っている 良一
「あとがき」の結びに以下のように記されている。
五十七歳の時、自由律俳句の道に入った私も、早くも八十二歳という歳になりました。二十五年という句歴を持ちながら、相変わらず大成しきれない私ですが、これからも自分の道を進みながら、独自のポエジーを探求してゆきたいと思っています。
独自のポエジーとは、彼にとっては、自分自身の哀歓を人生の哀歓に敷衍して俳句を書くことであろう、と思う。そこにいささかのユーモアとペーソスを同居させているのだ。 それは当然ながら老いを詠んだ句にも通じている。本集は平成二十五年以降の句を収めるが、「昨年、心臓を悪くしてペースメーカーを入れたこともあり、するべきことはなるべくしておこう、という気持ちに後押しされたことも決断の理由」(「あとがき」)と句集刊行の動機を語っている。
ともあれ、いくつかの句を以下に挙げておこう。
笑いとばして咳きこんでいる
眠っちゃいけないのにねむたい世の中だ
まだあきらめないぞジャンケンはこれから
一生が夢であってもあなたは夢じゃない
泣く場所がないから泣かない男でいる
もがいたら沈む じっと浮いていよう
何もこわくない命という切札があれば
背骨のかたちに老いがきている
一匹残った蚊のさびしさがたたけない
曲がった胡瓜のなかにまっすぐな味がある
雲がみな同じ方に流れる空の憂鬱
ことばがみんな劣化したから黙っている
コツンと割った卵から朝があふれる
久光良一(ひさみつ・りょういち) 1935年、朝鮮平安南道安州邑生まれ。
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