2017年6月23日金曜日
四ッ谷龍「暗く邈(ふか)き声のかたまりとして生まる」(「むしめがね」No.21)・・
「むしめがね」No.21は四ッ谷龍の個人誌である(かつては、今は亡き冬野虹と二人誌だった)。特集1「中西夏之さんをしのんで」は黒田悠子インタビュー記事。ここでは特集2、四ッ谷龍句集『夢想の大地におがたまの花が降る』にのみに触れておきたい。
「今号に収録した私の作品は『夢想の大地におがたまの花が降る』に収録したもの、および同時に制作して句集に入れなかったものである」(後記に相当する「ルーペ帳」より)と述べいて、約700句が掲載されている。論の執筆者は鴇田智哉「そこはかとない兆し」、堀本裕樹「韻律に在する空と誦経性」、北大路翼「重層的挑戦」、そして一句鑑賞は今井肖子、仮屋賢一、マブソン青眼、宮本佳世乃の各氏。それぞれに四ッ谷龍の句の特質をとらえて読ませる。多くは四ッ谷龍の俳句観に寄り添った論だったが、北大路翼だけは、自分の俳句観の主張をきちんと書いて、四ッ谷龍の句の在り様をよく分析していたように思う。例えば、
なななんとなんばんぎせるなんせんす
掲出句は「な」の頭韻の一連の一句目。(中略)
非常に巧みでバランスはよいが、逆に巧さだけが目立つてしまひ成功してゐないと思ふ。頭韻で読むならば、頭韻によつて自分の語彙を越えた奇跡の一語が欲しい。正木ゆう子の〈ヒヤシンススイスステルススケルトン〉はしりとりがなければ、「ステルス」に辿り着けない必然性があった。
また、「安皿・造花あふれてリサイクル店の暑気」については、
素材、リズムともに僕好みな一句。あふれても店内を的確にとらへてゐると思ふ。一言文句をつけるとすれば安皿の「安」の一語。この一語の所為で通俗的になり過ぎる。音数は合はないがプラスチックの皿とかにして、チープ感を出してほしかたつた。
と言う具合である。なかなか濃密な一冊であった。
ともあれ、どの句を引いてもいいのだが(一句のみではなく、句の流れを読むのが相応しく思われる)、いくつかを以下に挙げておきたい。
縄文人乗ってきてバスパンクかな 龍
山百合を薄暑の裂け目とも思う
君は一本の川だ静かに覚めている
冬の雨鶴の膝へと吹きつけぬ
冬の噴水小さな虹をひらきけり
バッティングセンターの打音が夏を浄めている
ひごくさにふれた指から黄泉へ飛ぶ
NEXT!粘土でつくれネクタイを
糸電話そっちの空の色は赤
秋暑し猿は鎖をもてあそび
ニュートンの対称式へ降るおがたま
おがたま咲く黒猫は歯を剥き剥き行く
いつもこちらの出版に目配りいただいて有難うございます。今回も特集の内容に触れていただいて、おおいに力づけられました。
返信削除標題句ですが、「暗く邈(ふか)き声のかたまりとして生まる」が正しい形です。
大変失礼をいたしました。早速句を訂正させていただきました。じつは「むしめがね」を最初「むすめがね」と打ちミスをしていて、ブログのアップ直後に気が付き、これはすぐにも直せたのですが、句についてはじつに大きな間違いに気づかず失礼しました。ご指摘有難うございました。大井恒行拝
削除