2017年12月20日水曜日
井口時男「まぼろしの花見る我ら日は傾き」(「鹿首」第11号)・・・
「鹿首」第11号、特集は「野に生きる」。「鹿首」という怪訝な誌名は、副題にあるように「『詩・歌・句・美』の共同誌」に因む。
記事のそれぞれは興味深いものばかりだが、愚生には、とりわけ高柳蕗子「ここ掘れわんわんとシロが呼ぶー短歌のオノマトペ」だった。髙柳蕗子から以前に聞いたことがあるが、彼女のパソコンには短歌や俳句のデータベースが相当数あって、キーワードを入力するとたちどころに、その語を含む短歌が分かると言っていた。そうしたデータベースを資料にして本論も書かれている。そして、その視点は、いつも思うのだが、高柳蕗子の独特の分析力と具体的な作品を通して説得力を生んでいる。そのデータベースは、「私の短歌データベースは(2017年4月現在約7万9千首)に「むんむん」を含む歌はこの三首だけだった」と記されていた。その三首とは、
約一名闘う主婦がむんむんと夜中覚醒しているのです
久保芳美『金襴緞子』2011
むんむんと二階がふくれてゆくような春雷の夜にふとん敷く妻
吉川宏志『夜光』2000
枝と葉をゆさぶり合って前列の女子生徒らはむんむんと泣く
佐藤羽美『ここは夏月夏曜日』2013
である。また、本論の中で「もひもひ痒い、ふわふわ叱る」と題された部分に、
日本語は単音を二つ組み合わせて二回重ねれば、たいてい何かの感じを表せちゃうから便利だ。ふわふわ、ふかふか、微妙に違う。もふもふ、もひもひ・・・。
「もひもひ」なんて言葉はありません。でも使ってしまえば通じるかもしれない。例え
ば「背中がもひもひ痒い」と言えば、日本の人ならわかってくれそうだ。
逆に一般に通用する「ふわふわ」も、例えば、「ふわふわ叱る」などと、変わった使い方をしたどうだろう。微妙なニュアンスが生じる。もしあなたが歌人なら、うまく生かして歌を詠むのでは?あなたがもし読者なら、違和感なく受け止めるのでは?
と述べられている。なるほどと思う。
ともあれ、本号のなかに掲載されている句作品から一人一句を以下に挙げておこう。
朝霧や阿蘇の五岳もやや目覚め (阿蘇) 井口時男
大過去へ焼け落ちてゆく西の空 黒田正美
春浅し空ふらここに雨すだく 奥原蘇丹
湧水は羊 三沢暁大
花ふぶき みんな渡してしまいたい 徳永政二
光る田に直線の声つばくらめ 翁 譲
半径五百米内博覧記 風山人
AIに勝てる棋士なし人類(ひと)の春 星 衛
明かりなし老梅ほのか彼此(かこ)の風 研生英午
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