加山紀夫句集『螢川』(角川書店)、序文は武藤紀子。その末尾に、
紀夫さんの作り出される俳句の世界は美しい。透明感にあふれ、一篇の詩のようだ。近年になるほど色彩も豊かになってきている。それはおそらく紀夫さんの純粋さ、素朴さ、一本筋の通った生き方などによるものなのであろう。
と記されている。集名は、
螢川昼は山鳩鳴いてをり 紀夫
の句に因むものだろう。そして「これは遺句集じみた私の第一句集である」(「あとがき」)と記されているが、また、
「円座」の武藤紀子先生にご指導を賜りました。この句集をまとめるのにも読み書きの不自由な私の為に武藤紀子先生には序文及び選句、出版社との交渉など何から何までお世話になりました。感謝の念にたえません。しかし、こうして一書にまとめると、第二句集への意欲が湧いてくるようです。
ともあった。第一句集が遺句集とならないよう、是非、長生きして第二句集を目指していただきたい。
その結社誌「円座」の2月号には、加山紀夫「動くものなくて枯葉のながれけり」「南中の太陽低しもみぢ散る」の句があった。そして、他にも、愚生にとっては読み応えのある連載がいくつかある。中田剛「宇佐美魚目のラビリンス(四十二)」、関悦史「平成の名句集を読む(第二十一回)」、藤原龍一郎「句歌万華鏡(12)」、松本邦吉「季語でたどる芭蕉の句⑫」などである。
また、本句集には田中裕明の忌日を詠んだ句が三句ある。
深爪の一日痛し裕明忌
電線に雪のつもれり裕明忌
一度だけ声かけられし裕明忌
裕明は生きている、と感銘を深くしたのである。
ともあれ、いくつかの句を以下に挙げておこう。
空袋握り潰せり年の暮
蜩をこの地に聞かず敗戦日
散りてなお椿の生きるつもりらし
年忘れ鳥の出来ない後退り
初螢母の世の戸を開けてくる
蝶生れてまづ大木を這ひ上り
B29や炎の中の雛人形
加山紀夫(かやま・のりお)、1932年、静岡県生まれ。
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