2018年1月6日土曜日

岩淵喜代子「紙漉くは光を漉いているごとし」(『穀象』)・・・



 岩淵喜代子第六句集『穀象』(ふらんす堂)、栞文は浅沼璞「もう一つの陸沈ー人称の多様性から」と田中庸介「真顔の句」。

 穀象という虫、最近ではとんと見かけなくなったが(米には、石や藁の欠けらなどもよくまじっていた)、愚生の小さい頃は、米びつにはよく穀象虫が湧いた。日々覗いては、それをいち早く抓みだすのも、炊く前に米を枡ではかるときの大事な役目であった。というわけで、西東三鬼の「穀象の一匹だにもふりむかず」の句は、愚生の俳句人生初期のころからの愛誦句になったが、他の俳人にも穀象を詠んだ句はけっこうあったように思う。そして多くは生活の匂いのする句ばかりだったように思う。その伝でいけば、

   穀象に或る日母船のやうな影   喜代子

 の句のようには想像力が働かない。著者「あとがき」に、

 穀象とは米を食べる虫で、縄文時代から存在してきた生き物です。
 知らなければその名を聞いて、体長三ミリしかない虫とは思わないかも知れません。その音律からも、字面からも、昔語りに現れてきそうな生き物が想像されます。
 米の害虫だという小さな虫に、穀象と名付けたことこそが俳味であり、俳諧です。

 とある。ともあれ、いくつかの句を以下に挙げておこう。

  空蟬はすでに化石の途中なる    喜代子
  極楽も地獄も称へ盆踊
  半日の椅子に過ぎけり竹の春
  空青く氷柱に節のなかりけり
  闇夜には氷柱の杖で訪ね来よ
  暗闇とつながる桜吹雪かな

岩淵喜代子(いわぶち・きよこ)、1936年、東京生まれ。





  

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