2018年2月28日水曜日
瀬戸内寂聴「御山(おんやま)のひとりに深き花の闇」(『ひとり』)・・・
瀬戸内寂聴句集『ひとり』(深夜叢書社)は、80句程度に7編のエッセイを収めた、いわば句文集のようなものだが、長い句歴のわりには厳選された句が並ぶ。「あとがき」に集名に因む結びが記されている。
百年近い生涯、こうして私は苦しいときや辛い時、自分を慰める愉しいことを見出しては、自分を慰め生きぬいてきた。
句集題名は「ひとり」。
一遍上人の好きな言葉があった。
生ぜしもひとりなり
死するもひとりなり
されば人とともに住すれども
ひとりなり
添いはつべき人
なきゆえなり
集中の句にも「ひとり」を詠んだ句は多い。
生ぜしも死するもひとり柚子湯かな 寂聴
ひとり居の尼のうなじや虫しぐれ
春逝きてさてもひとりとなりにけり
独りとはかくもすがしき雪こんこん
御山(おんやま)のひとりに深き花の闇
エッセイには交遊のあった作家のその人となりを描いて、その作家の句も添えられている。例えば、
露の身とすずしき言葉身にはしむ 高岡智照尼
門下にも門下のありし日永かな 久保田万太郎
初暦知らぬ月日は美しく 吉屋信子
舞初や心にしかと念じつつ 武原はん
羅(うすもの)や人悲します恋をして 鈴木まさ女
愚生は、晴美時代の大杉栄と伊藤野枝を描いた『美は乱調にあり』を愛読したことがある。
ともあれ、他にいくつか寂聴の句をあげておこう。
子を捨てしわれに母の日喪のごとく 寂聴
おもひ出せぬ夢もどかしく蕗の薹
生かされて今あふ幸(さち)や石蕗の花
ほたる抱くほたるぶくろのその薄さ
落飾ののち茫茫と雛飾る
瀬戸内寂聴(せとうち・じゃくちょう)1922年、徳島市生まれ。
情熱のあまりに子を捨てた。
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