『季題別 柴田多鶴子句集』(邑書林)、柴田多鶴子の第一句集『苗札』にはじまり、各句集『恵方』『小筥携え』『花種』全句と,『花種』以後の未公刊句を収録した、文字通りの現時点における柴田多鶴子全句集である。その帯の惹句には、
摂津峡の近くに拠点を定め、
様々な《愛》の姿を基調に素材を拡げてきた
多鶴子俳句の現在を顕かにする1972句
とある。掲載句の下には、それぞれの収載句集名が記され、『花種』以後は記名が無いのであるが、その句数はけっこう多い。収録句は昭和62年から平成29年までの間に作られた句で、柴田多鶴子が平成23年に「鳰の子」を創刊主宰して7周年の記念出版でもある。句歴は「狩」「遠矢」を経てとあり、おおむね平明ながら、核心を思わせるというべきか。多鶴子歳時記とあるように一冊一冊の句集を読むのとは違う、季節ごとに配された句には、また一味ちがう句のありようがそこに伺える。
現住所を見ると、大阪府高槻市とあったので、この度の震災で、恙なきことを祈りたい。
ともあれ、当季の夏をふくめていくつかの句を挙げておこう。
老鶯に湖のさざなみ応へしか 多鶴子
子規堂の息切れしたる蟬の声
すでに道決めたる我へ道おしへ
蛭蓆油のやうなる水の面
やはらかに混み合つてゐる菜を間引く
神の留守道の両端濡れてゐて
あばれ独楽われにかへりて倒れけり
海神(わたつみ)
の遊びごころか蜃気楼
遠山のむらさきがちに秋桜
柴田多鶴子(しばた・たづこ)、昭和22年、三重県生まれ。
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