2018年6月29日金曜日

齊藤保志「虚貝手に二つ三つ終戦日」(『花投ぐ日』)・・・

          

 齊藤保志第一句集『花投ぐ日』(コールサック社)、集名に因む句は、

   父の日の海に花投ぐ日となれり     保志

である。解説は鈴木光影。著者「あとがき」には、次のように記されている。

 会社を定年退職後、精神的にも健康でいられる方法を考えていたところ、偶然杉並区報で明治大学の社会人向け俳句講座「俳句大学」の生徒募集の記事を見つけ、応募したことが俳句との出会いになります。(中略)
 立花藏さん、鎌田俊さん、林誠司さん、遠藤若狭男さんなどなど、どなたがどの派に所属しているか、日頃どういう句を詠まれているかなど全く知らぬまま、自分の予定で空いてさえいたら、その方の句会に参加させていただこうということで、沢山の方の句会に参加させていただき現在に到っております。また、保志(ほし)という俳号は角谷昌子さんに命名していただきました。

また、帯文の鈴木比佐雄は、

 齊藤保志氏の句には、戻らない父からの便りが届く。すると「路地裏にパン焼くかをり」が漂いはじめ、「竿竹の売り声」が春の風に乗って響き渡り、「いまだ見ぬ父眠る島」に「梅雨の蝶」となって、「父の日」には太平洋の海に花を投げ入れるのだ。

と記している。身心ともに健全でいるために始められた俳句だそうだが、本句集誕生もまた幸運な旅の始まりいうべきだろう。ともあれ、いくつかの句を以下に挙げておこう。

  母よりの柿部屋中に陽の匂ひ
  薄紙を解かれて雛の深呼吸 
  瞳まづ瞳の色や蟬生るる
  乳切ると言ふ人の来て神無月
  石階(きざはし)の上の神より春の風
  幻戯山房川より暮れて花芒
  万の黙刻む礎(いしじ)や雲の峰
  骨壺をもろ手に包みすきま風
  電飾の木は熱もたず憂国忌

齊藤保志(さいとう・ほし)、1942年、東京生まれ。


           撮影・葛城綾呂 モジズリソウ↑    


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