2019年2月4日月曜日

岡田日郎「渓激ち閃光飛びの雪ばんば」(合同句集『塔』第十集より)・・ 



 合同句集『塔』第十集(風心社)、「塔の会」は五年ごとに合同句集を出している。第十集だから50周年である。巻末の岡田日郎「塔の会五十年小史」には、

  昭和43年
 「塔の会」の初句会は東京都郵政会館会場に昭和四十三年二月十九日の強い雨の夕刻から開催された。(中略)当時、俳人協会に所属する各結社の中堅メンバーということで、毎月句会を中心に会合が続けられた。

 とある。メンバーは星野麦丘人、礒貝碧蹄館、岸田稚魚、草間時彦、鷹羽狩行ら16名だが、初回の句会に参加したのは、その中の11人だった。
 昭和48年に塔の会の存続を可否をめぐって論議になったが、臨時総会を開き、句会に一年以上の欠席は会友とし、月例の案内は出さない。能村登四郎、磯貝碧蹄館など6名を会友にし、新会員に細川加賀、池上樵人など6名を加えて再出発している。合同句集は現会員25名、句数は基本84句、エッセイ、略歴、こまかな著作についての記述が付してあるので、それぞれの収載作者の主要な部分は伺い知ることができる。エッセイのなかで、とりわけ印象に残ったのは、七田谷まりうすが、まっとうな厳しい見解を表明していることだった。

 俳句の世界を中期的にみると、句集刊行数の低迷、個別の作品・題材のマンネリ化(軽みよりも弛み・たるみ)が目に付く。(中略)しかも概して奇想を新風と勘違いする向きもあり、俳句作品の質的後退は否めない。

 と記している。ともあれ、以下に一人一句を挙げておこう。

  半跏より身を乗りだして時雨けり     石嶌 岳
  敬礼をしてゆく男社会鍋         稲田眸子
  冷房や源氏の恋のおぞましき       上野一孝
       夏池駒ケ岳
  雪腐る渓か岩に手当てよぎる       岡田日郎
  鉄アレイ五キロ大高源吾の忌       菅野孝夫
  富士額らしくも見えて狩の犬       菊田一平
  初みくじ日当たる枝に結びけり      栗原憲司
  月へ飛ぶ恋猫の胴伸びにけり       小島 健
  兵たりし米寿の父が草石蚕食む     佐怒賀直美
  人去つて星のプールとなりにけり    しなだしん
  袖を重ねて形代の流れゆく        杉 良介 
  億年のひかりむさぼる冬桜        鈴木太郎
  鳥帰るどの木の幹も濡れてをり      鈴木直充
  楓の芽七日の昼の月高く         染谷秀雄
  たはむれに蝶の触れ行く糸電話     寺島ただし
  雲の峰家々に湧く生水(しやうず)かな  中山世一 
  立ち泳ぎして群青を蹴つてをり   七田谷まりうす
  裸木の落葉松妣として仰ぐ        根岸善雄
  白菜を割るや黄金曼荼羅図        檜山哲彦
  一本の冬木を父と思ひけり        広渡敬雄
  銃(つつ)とりし父の忌八月十五日    前澤宏光
  からすうりいつついつしよにひきおろす  松尾隆信
  万葉の世へ真間川の花筏         森岡正作
  たましひのゆるびてをりぬ花月夜    山田真砂年



★閑話休題・・森無黄「魔所に入りて怪に遭いけり泊り狩」(「コスモス通信」とりあえず十号 より)・・


  明治時代「季語」の創始者として記されていたという。「現代新派」を名乗っていたともいう。その句句が博文館『月分新派句選』(有田風蕩編・明治41年12月刊)に、相当数収められているという。この「コスモス通信」は妹尾健が不定期に出している個人冊子であり、今号のなかで「多行形式の今日的意義」と題されたものを、以下に抄録する。

  ゆくりなく

  他人の空を
  人逝きぬ        中里夏彦

 もう一句は、

   氷点の
    空の美貌に
       無帽の
        帰還    

 である。中里夏彦は福島県双葉町の俳人で、原発から五キロ圏内に住んでいたから(家も墓もそこにあった)、たぶん永遠に帰還はかなわないのではなかろうか。妹尾健は、

  これらは慟哭である。悲しみは天を貫きとどまることを知らない。人はそれをささえにして生きていかねばならない。この慟哭はとどまることなく私たちをつつみ明日もまた私たちの前にたちふさがる。中里氏の作品はその無帽の帰還をかたりつづけるのであろう。俳人がその前に立ち尽くしてなんの不思議があるのか。いやされることのない悲しみに中で、今日も俳句を作りつつ慟哭をささげていく。この達成はついに多行において果されたといえよう。そしてそれはひとつの道筋となって結実した。私たちはこの形式に新たに目をみひらいていかねばならない。

 と語っている。玉文であろう。

 中里夏彦(なかざと・なつひこ) 1957年、福島県生まれ。



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