2019年3月27日水曜日
永島理江子「笹鳴や方丈と目を交しあふ」(『石鼎のこゑ』)・・・
永島理江子第6句集『石鼎のこゑ』(現代俳句協会)、懇切な序は宮坂静生。集名に因む句は、
瓢吹けば石鼎のこゑ間近にす 理江子
宮坂静生の序文には、「瓢」に「ひよん」のルビが付されいる。それには、
石鼎は、昭和二十六年(一九五一)十二月二十日没。私はようやく俳句詩型に出会った頃で、もとより石鼎の声をしらない。が独特の俳句朗詠の持主であったようで、石鼎人気は声を通してどこかセクシャルな生身の人間の魅力に繋がるところがあり、確かに特異な俳人であったらしい。
ひょんの実を吹けば吉野を近くせり
同じ発想の句である。東吉野村の石鼎庵は先年訪れ、鹿火屋守の哀愁気分に触れた。
とある。また、集中の「涅槃吹く家の中にもけものみち」の句については、
「けものみち」は出色の作。涅槃吹くとは釈迦入滅の陰暦二月十五日頃に吹く西からの季節風である。夫がいない荒涼としたわが家を「けものみち」とは哀切だ。
と述べている。著者「あとがき」には、出雲一の谷公園の石鼎の句碑「一枝の椿を見むとふるさとへ」を訪ね、石鼎生家を訪ねた折りに、
お庭では、ちょうど咲きそめつつある椿が純白の色をしていたことに驚き、それ以来、私の心の中も常に純白であることを願っております。
と記されている。ともあれ、集中より、いくつかの句を以下に挙げておこう。
初夢を見すごしたるはかなしかり
少しづつどの木も濡れて寒明くる
子烏の鳴くや夜空の涙壺
きのふよりけふ囀の機嫌よさ
七月三十一日午前二時夫逝去
金剛杖けふ越えゆかむ秋の虹
九秋の墓にことばをかけつづけ
泣きたくて我慢の熟柿すすりけり
たつぷりと水浴び出づる蟇の咽
盆路やはやう来ぬかとこぼれ雨
落蟬の鳴く間も天をめざしけり
永島理江子(ながしま・りえこ) 昭和7年、東京生まれ。
撮影・葛城綾呂 ヒヨドリの仕業↑
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