2019年5月3日金曜日
山﨑十生「添ひ寝とは違ふ共寝や春あけぼの」(「紫」5月号より)・・
「紫」5月号(紫の会)は創刊900号記念特集である。号数は、「紫」の前身「花野」が、昭和16年10月に創刊されてからの通算だという。山﨑「十死生」が「十生」と俳号を変え、先師・関口比良男(旧号は関口櫻士)より、主宰を引き継いでからもすでに21年が経つという。早いものである。山﨑十生(十死生)が、16歳で先師の門を敲いてから56年が経っているとも記されている。もちろん、「紫」主宰になる以前から「豈」同人であり、攝津幸彦亡き後の現在も「豈」の最古参同人の一人である。
900号記念特集は、「紫」誌の現有作家の作品5句と「紫」にまつわるミニエッセイが掲載されている。山﨑十生の第一句集『上映中』から、『悠悠自適入門』までの9句集からの句の抄出と、短文とはいえ、すべてに著者自身のメモリーと題したコメントが添えてあり、抄出掲載されたものの他に、山﨑十生番外句集4冊、主要共著5冊がある。さらに近刊句集2冊の刊行予告がある。加えて筑紫磐井による評論と酒井佐忠による解説の再掲載記事など、山﨑十生の歩みがほぼ一望できるのも、本記念号の特徴である。
そしてその道筋は、先師・関口比良男の掲げた「大道無門・一句一面貌・感動優先」の大道を極めようとするものであると言えよう。そのことを十生は、句集『伝統俳句入門』(平成7年、ふらんす堂)において、
別に私は、逆説的な意味合いで『伝統俳句入門』と書名を決めた訳ではなく、真の伝統俳句を書いているつもりである。俳句の王道を極めたく、本音を言えば、「良いものは良い、俳句はひとつ」に尽きるのである。
と言い、句集『大道無門』(平成17年、文學の森)では、
「俳句の道には門がない。誰でもが、どこからでも入れる懐の深さがある。しかし、それに甘えることなく、大道の門(俳句)を敲き進んで行けば、必ずや求めるものが得られる筈である。」
と記している。各句集抄出より、二句ずつ以下に紹介しておきたい。
鬱血の手でバルコンの木目に触れる 『上映中』19歳
恋恋と漣漣と雪充血す
死に水を他人に飲まれてしまひけり 『御霊前』23歳
長いから切ってしまひぬうしろ指
車座になって銀河をかなしめり 『招霊術入門』39歳
風のないときは乱れている芒
雪の全運動量をエロスとす 『伝統俳句入門』48歳
もう誰もいない地球に望の月
愛人に戻るひととき亀鳴けり 『花鳥諷詠入門』57歳
アフガンの冬 青空で飢え凌ぐ
月光を生み出す闇のちからかな 『大道無門』58歳
流さるる寸前雛の深呼吸
とんだこってがんした燗の酒を飲む 『秩父考』59歳
永遠に老人春を満喫す
遂げられし恋など邪道青き踏む 『恋句(れんく)』64歳
ほんたうの恋は片恋霏霏と雪
虫出しの雷私はいつ死んだ 『悠悠自適入門』65歳
春の地震などと気取るな原発忌
最後に、記念号の龍門集から一人一句を挙げておこう。
ダージリンティー毎日が原発忌 山﨑十生
少女らのおしゃべり春の流星群 渡辺まさる
どう初期化しても残りぬ蜥蜴の尾 鈴木紀子
いろ紙に山鳩のうたたたまれる 関口晃代
ひと恋ふは國成すはじめ蘆の角 若林波留美
脱皮するたび傷つきやすくなつてゐる 森壽賀子
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