2019年6月22日土曜日

攝津幸彦「国家よりワタクシ大事さくらんぼ」(「俳句」平成13年3月号より)・・



 三日前、いつもゆくカットの美容室の隣りにある国分寺駅北側の古書店・七七舎(しちしちしゃ)が、今どきの古本屋には、珍しく拡張されて、店前の棚には、すべて100円均一の本や雑誌が並んでいた。眼に飛び込んで来たのが、「俳句」(平成13年3月号)だった。それは「連載大特集120俳人の句と言葉に学ぶ(後)」と、「追悼大特集・中村苑子」であり、手に取ると、グラビア「季節と俳人達」は、今よりはるかに若く仁平勝と対馬康子が仲良くツーショットでおさまっているではないか。

   寒中の対馬康子をしつかりと     仁平 勝
   見つめ合う位置に立ちつつ見る枯野  対馬康子

 加えて、驚いたのは、ページをめくると「120俳人の句と言葉に学ぶ」の攝津幸彦を愚生が執筆していたことだった。愚生の記憶から全く消え落ちていた。せっかくだから、最後の部分を以下に引用しておく。

  《恥ずかしいことだけど、僕はやっぱり現代俳句っていうのは文学でありたいな、という感じがあります。「文学」ってどういう意味だって言われるけど、これはやっぱり読み返すたびに新しい何かが見いだされて、その底にはある種の悲しみとか、あるいは毒ですね、そういうものがないとあまり書く意味がないんじゃないかと(中略)その攝津幸彦を評して加藤郁乎は「明治以降そこそこの写生などという馬鹿念にいささかも害されぬ俳本来のなつかしみがある」と述べている。

 さらに驚いたのは、髙柳蕗子が「そのぽん」と題して、知られざる中村苑子(そのぽん)と高柳重信(パパ)と自分(蕗子)が語られていた。その書き出しは、

  母には四種類あるのをご存知だろうか。義母、継母、養母、実母である。
 私にとって「そのぽん」はこのどれでもなかった。
「そのぽん」とは、パパの奥さんの中村苑子である。この話には、ちょっと長い説明を要する。

 とあって、十歳の蕗子が、いつも明晰、判断を仰げば、即座に子供にもわかる言葉で、適切な答えが返ってくるはずだった重信(パパ)に対して、

 「なぜママは帰ってこないの」
パパは返事が出来なかった。そのぽんにも緊張が走って、「それでもかまわない。自分がどこかにいなくなる」と、わけのわからないことを言い出すではないか。(中略)
「そのぽんはどこにも行かなくていいよ。ママを呼び戻して四人で暮らそうよ」と言って泣きだした。そのぽんも黙ってしまった。

 ママとは蕗子の実母・高柳篤子である。ある時、加藤郁乎が「そのぽん」を聞きとがめ、「ちゃんとお母さんと呼びなさい」と蕗子に言う。重信パパに、

 「お母さんはひとりいればいいでしょ。そのぽんをお母さん呼んだらウソでしょ。そのぽんはおもしろいおばさんで、私は好きだから、そんなウソをついて親子のふりをする必要はないでしょ」(中略)
「そうでしょう、パパ。そうだよね」と強く確認した。パパはついに、
「そうだね、それでいい」
と言った。
 このとき、そのぽんは、「いかなる母にもあてはまらない人」に確定したのである。そのぽんとふーちゃん(私のこと)は、役柄や立場に関係なく一対一だ。以後ずっと、ごく自然にそれを通してきた。(中略)
そんなそのぽんだから、母でもなんでもないただの「そのぽん」で付き合あう、というあのときの私の提案を、けっこう気に入ってくれていたに違いない。世の中の人は「平等」や「公平」ばかり気にして、そのぽんのように「対等」を理解する人は、とても少ない。

と結ばれていた。



          春風亭昇吉の母校↑

★閑話休題・・橋本明「黴臭き刻(とき)を律儀に古時計」(第192回・遊句会)・・


  去る6月20日(木)、愚生は事情在って、出席できなかった第192回遊句会(於:たい乃家)が行われた。兼題は梔子・夏暖簾・黴・当季雑詠で、愚生は欠席投句をした。当日の句会報を山田浩明がわざわざ送ってきてくれたので、せめて、以下に一人一句を紹介しておきたい。

  くちなしに過去は問うふまい白は白       山田浩明
  夏のれん上げる腕(かいな)の白さかな     川島紘一
  山小屋の黴のけはひや夜の雨         山口美々子
  夏のれんくぐればそこはでんでら野       石川耕治
  人にすら黴は取り付くさみしがり       原島なほみ
  梔子やかをりばかりの恋心           渡辺 保
  花梔子クールジャズに針おとす         武藤 幹
  「おいでやす」夏暖簾に清(すが)し笑み    橋本 明
  梔子の花の匂いや吉永小百合          村上直樹
  若女将行きつ戻りつ夏のれん         中山よしこ
  吹く風のカビの香やけに懐かしく        前田勝己
  パン黴びて叩けば昇る靑煙り          石飛公也

☆欠席番外投句・・・・

  保線区の梔子の花錆びはじむ          石原友夫
  夏のれん同じ布地のコースター        春風亭昇吉
  家々の癖ある黴の匂ひかな           林 桂子
  夏暖簾誘われてゆくもう一軒          加藤智也
  梔子の香に呼ばれたる鬱の日は         大井恒行
   
 山田浩明の句会報に付されたメールによると、今回の遊句会に欠席した春風亭昇吉からは、

 先日の国立演芸場での会には,「遊句会からたくさんおいで頂きました」とのお礼の言葉を申しつかっています。

 とのことであった次回予定は、7月18日(木)、兼題は、孫太郎虫・アロハシャツ・土用。

 

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