2019年6月10日月曜日
杉阪大和「花言葉なき一生を水中花」(『思郷』)・・
杉阪大和第二句集『思郷』(北辰社)、表紙装画は杉阪景雲。帯の惹句は伊藤伊那男、それには、
杉阪大和の人生の背骨ともいえる飛彈の山河への思い、父母への感謝の念は故郷を持つ都会生活者の、いや読者すべての胸を揺り動かすことであろう。
手放しの望郷の念と、写生で磨きあげた冷静な観察眼とが渾然一体となって俳境を深めている。
と、記されている。こうした本句集の基調は、著者「あとがき」に、
私は四方を山に囲まれた奥飛彈に生まれた。昨年久しぶりに生家の裏山に登ってみた。出城があった山で、少年時代の遊びの拠点であった。そこには昔と変わらぬ美しい風景があり、村を一望していたとき、涙があふれてきた。(中略)
自分は単に山に囲まれた幼年期・少年期を過ごしたのではなく、山々に温かくまた厳しく抱かれて育まれて来たのだと思ったとき、懐かしさだけではなく、この故郷に愛しさと、感謝の気持ちが湧いてきたのである。
とある。あるいはまた、
「春耕」では皆川盤水先生に「俳句の骨法と写生」を、棚山波朗先生には「産土の風土詠」を学んだ。「銀漢」では伊藤伊那男主宰に「抒情と俳味」を学んだことで、私の句風の幅が広がったように思う。
ともあり、これもまた、思えば、幸せな俳句人生というべきだろう。ともあれ、本集よりいくつかの句を以下に挙げておこう。
日を連れて笹鳴裏に移りけり 大和
一斉に裏を見せたる真葛原
寄せ付けぬ間合いを常に孕鹿
裏木戸は生簀に続く鮎の宿
舌に雪受けてふるさと間近にす
陶片は土に還らず草ひばり
孤でもなく陣でもなくて春の鴨
吊るされて衣に出たる花疲
煽るより叩く男の渋団扇
初蝶過ぐ色の覚えのなきままに
音となる前に遠のく初時雨
子に譲るもの何もなき日向ぼこ
裏山へただそれだけの帰省かな
杉阪大和(すぎさか・やまと) 昭和18年、岐阜県吉城郡(現・飛彈市)生まれ。
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