水内慶太第二句集『水の器』(本阿弥書店)、『月の匣』以後の15年より310句を収載、「『水の器』は私自身である」(「あとがき」)という。その「あとがき」のなかに、
先生の言葉の中では特に「俳句の上達を願わないものはないが、人と競うということは多少の励みになっても、ただそれだけのこと。競うべきは、たたかうべきは〈きのうの我〉の作でしかない。〈きのうの我〉に満足し、旧作に悦に入っているようなら、もはや上達も進歩も深化もないと心得ていい。
先生とは上田五千石である。さすがにその忌日がくるたびに句にしている。例えば、
五千石先生の忌
畦秋忌思へば木の実あたたかし
五千石先生の忌
酒断ちて七曜過ぐる畦秋忌
十字架や五千石忌の月の畦
台風の眼の中にゐる畦秋忌
五千石先生の一八回忌
琥珀忌や蒼ざめてゐる雨後の海
その昔、娘の上田日差子に、わざわざ上田五千石に紹介していただいたことなど、懐かしく思い出す。五千石の急逝は、確か還暦を少し過ぎたばかりの頃だったと思うが、惜しまれていた。愚生は現在、とっくにその齢を越してしまっている。
万緑や死は一弾を以て足る 五千石
ともあれ、以下にいくつかの句を挙げておきたい。
菊枕夢を外すもよかるべし
伐り伏せの竹まだ風を離さざる
潮の瀬の狂気四角に箱眼鏡
遠からぬ昔に師在り温め酒
極東の舷梯に冬立ちにけり
かなかなかのかなのくらさにひともせり
桜蕊降り聖戦のいまもなお
かもめかもめ冬日の芯にわだかまる
山風のまざてふてふを招かざる
かりそめやゆるぶを咲くとむめさくら
破れ樋氷柱を吐いてをりにけり
水内慶太(みのうち・けいた) 昭和18年、北京市生まれ。
撮影・葛城綾呂 ↑
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