2019年9月1日日曜日
有馬英子「人間に代わり向日葵前を向く」(『火を抱いて』)・・・
西日中ぶっきら棒が立っている ↑
有馬英子第二句集『火を抱いて』(白俳句会)、献辞を加藤光樹「輝け心の火」、序をかわにし雄策、跋に飛鳥遊子「英子俳句と書」がそれぞれしたためられている。集名に因む句は、
火を抱いて獣を抱いて山眠る 英子
だろう。献辞のなかに、
(前略)小生が常に思うことは、身障の身で介護の方の手助けを得て毎日を過ごされている英子さんが、「白」の主要同人として休むことなく作句に精出されていることは素晴らしく、感謝の他に言葉がありません。作品を拝読しても、「白」に表記されている「白の主張」、即ち「俳句は抒情詩・・有季定型の要件を踏まえ、*個性の発揮*新味追求*表意率直を表現手段として、象徴性を目指す」を心した作句姿勢が覗えます。
とあり、また、序の中に、
(前略)作者の人間に向ける眼差しは、私たちの心を温めてくれます。歴史と時代に正面から向かい合い、この国の在り方の真実を見ようとされています。
東日本大震災、原発事故の被害、軍国化への前のめりになっている社会や政治の現実に対して揺るぎないプロテストの意思表示です。
銃口にタンポポ一輪挿しておけ
万緑の奥へ奥へと核のゴミ
八月のネジが三本落ちている
片蔭のショーウインドウに機関銃
二〇〇九年、東京都現代俳句協会の大会で一位になった句、
初蝶を次のページで捕まえる
英子さんの前には今後も様々な初蝶が現れることでしょう。それは夢であったり、希望であったり、未来に向かって成熟してゆくものの象徴です。
とある。そして、跋にはまた、
英子さんと書との出会いといえば、あるとき、短冊に自句を書いて提出すべしと言われたおり、ご自分で書かれることをお勧めしたのが始まりだったと記憶する。ほどなくして筆ペンに飽き足らず、毛筆を使われるようになり、自句をはじめ、お好きな詩や一文字漢字を積極的に書かれるようになった。字は力強く訴求力のあるもので、周りの人たちは”口々に元気をもらった”という。そこで、句集にも英子書を載せようということになった。
と、記されている。その文字について、有馬英子は「あとがき」で、
私の書く筆文字は「書」と呼べるものではないと思っています。正しい筆の持ち方でもなく、力の抜き方もかなり難しい。ヘルパーに紙を送ってもらわなければならない。しかしそれをふくめて自分なのだと思い、載せることにしました。題字を書けたことが一番の喜びです。
という。ともあれ、以下にいくつかの句を挙げておきたい。
母はまだ遊び足りない大花野
ヘルパーの上腕二頭筋薄暑
頬杖が外れて秋思粉々に
福笑いこれを自画像と決めた
青空を睨み返して鵙の贄
風花のハミング明日は晴れますか
鵯の絶叫車椅子走れ
ナイフなら投げたい梨なら齧りたい
光陰の矢を追い越して敬老日
天狼が見つめるフクシマの行方
クリスマスローズ祈りの膝を折り
時として命も奪う水を飲む
有馬英子(ありま・えいこ) 1949年、石川県金沢生まれ。
撮影・葛城綾呂 ヒヨドリ君 ↑
0 件のコメント:
コメントを投稿