2020年7月26日日曜日
浪江啓子「国後へくぐらん秋の虹の門」〔『旅の靴』)・・
浪江啓子第一句集『旅の靴』(朔出版)、著者「あとがき」に、
ここにまとめた句は「風」に参加していた十三年間の作である。沢木先生の選を得て掲載された五〇〇余句をもとに、三七八句を選んだ。
この時期はまた、東京とモスクワを交互に居住する期間に重なった。住んでいた土地で、そしてそれ以外の場所でも、句を作り続けていたのだと改めて認識し、この世を去ってしまった方々たちや、句を通じて親しく思い出される人々への敬愛と感謝の気持ちを込め、句集にしてみたいとおもうようになった。(中略)
題名「旅の靴」は〈旅の靴冷たき小石ころげ出る〉から取った。国外にいても、日本にいても、職務の関係もあって多くの旅をした。色丹島や国後島など北方四島へも度々出かけた。この句集は、旅の靴からころげ出た小石のようなものかもしれない。
とある。ともあれ、集中より、愚生好みになるが、いくつかの句を挙げておきたい。
威銃(おどしづつ)月山に雲集まりし 啓子
煮凝(にこごり)を箸の崩せる無言かな
口琴(こうきん)を白夜の空へ鳴らしけり
猫の足乗りて枯葉の音立つる
佇めば音を失ふ雪の森
雪雲のしばらく月を見せにけり
スウェーデン
色々のペンスで払ひ青リンゴ
囀りのひときは高き日に去りぬ
細見綾子先生
寒紅の口もて歌ふ米寿かな
チェーホフの黴の頁を開きたり
こけし屋にこけし少なし萩の花
沢木欣一先生
酸素マスクはづし談論クリスマス
鼻欠けしスターリン像斑雪(はだれゆき)
ヤースナヤポリャーナ
囀りて首かしげまた囀れり
浪江啓子(なみえ・けいこ) 1946年、東京生まれ。
撮影・鈴木純一「姨捨の月を見に行くかたつむり」↑
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