秦夕美句集『さよならさんかく』(ふらんす堂)、著者「あとがき」に、
もう句集は出さないときめていたので、ふらんす堂の現代俳句文庫に参加した。その後は「GA」の書下ろしだけが残っていけばいい。(中略)それがふと、仮名ばかりの題名の句集をもっていないことに気づいた。(中略)あれこれ考えているうちに「さよならさんかく」という言葉が浮かんだ。本の形は柩に似せて横長。目次は四季でも年代順でもつまらないから、「あさ」「ひる」「ゆふ」「よは」と一日の時間軸にする。(中略)「またしかく」はないだろう。
見開き十句には同じ漢字を出来るだけ使わないよう気を付けたから、歳時記的には少しずれが生じる。だが、自分の美意識を優先した。
とあった。全句集『五情』以後の2000句以上を厳選しての、搭載句数は299。ともあれ、以下に集中よりいくつかの句を挙げておきたい。
冥府ともちがふさくらや山櫻 夕美
家猫の声にはあらず芽木の空
魂はかるくてぢやうぶ玉簾
啞蟬にそばの雨粒まぶしいぞ
生者より死者のしたしき大旦
見ず聞かず信ず来世の雪の椅子
ひとごとの柩がとほる著莪の花
ゆきあひの空の奥処や祭舟
国家てふ形なきもの濃紫陽花
おいで雲おいであなたも月の塔
円本の脱字伏字や天の川
秦夕美(はた・ゆみ)昭和13年生まれ。
「豈」44号(Who's who)・2007年 ↑
★閑話休題・・伊東宇宙卵「われて病む日のなかをゆく緑星」(「豈」44号・2007年より)・・・
伊東宇宙卵こと伊東聖子の訃が至たった。昭和7年生まれ。享年87。昨年8月に亡くなられたとのことだった。心不全。「豈」63号を、何とか本年中には発行をするという意気込みで、いよいよの原稿鶴首の督促状を出したところ、長女の方からの返信をいただいたのだ。本人の意向もあり、一切は知らされなかったという。詩歌句のママさんでもあった。哀悼。
伊東聖子の主要著書は、句集『永劫回帰』、小説『新宿物語』他、歌集『透視』『睡蓮曼陀羅』他、評論『女の系譜』『女と男の時空』など。
芽夢野うのき「遠くかみなり琉球朝顔仰ぐ」↑
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