(前略)ヘンテコの街を抜けてヘンテコの森に入る。眼にするもの、時間、空間が全部ヘンテコ。ヘンテコ祭だ。そに風景に眼が慣れたころ僕らは覚醒したように重大なことに気づく。
先入観に支配されてヘンテコだと判断している読者自身が歪んでいるのだと。
この句集を読んだ人は自分が如何に「詩」に無縁であるかを思い知る他はない。ほんとうのことを言うと、詩は、文学は、芸術は、俳句も、凡人なんか必要としていないのだ。早苗さんのヘンテコを見つめて自分の歪みを正し、自分の中のヘンテコを見つけ出して育てる。それしかほんものの俳人になる道はない。
とある。まさかとは思うが「ヘンテコの街を抜けて」の「街」は、主宰誌「街」のことでは?・・・(冗談です)。集名に因む句は、
ぱららんとトランペット鳴り梅雨明くる 早苗
である。その「あとがき」の冒頭に、
自分の句を客観的に分析すれば、デッサンを無視して、いきなりキャンパスに見たままに思うがままにパレットから色彩を絵筆ですくい取って、殴り描きしたような印象である。そつなくきれいな仕上がりとは程遠い。光景にぶつかりながら、思いを絵筆に託して不器用に文字が並ぶ。ゴツゴツ、ブツブツとキャンパスから音がしてくるようだ。句は作者の性格のみならず、人生を表すと信じている。
と記されいる。ともあれ、愚生好みに偏するが、本集より、いくつかの句を挙げておこう。
春夕焼キリンが角で交信す
黒犀のやうな貨物機雪催
鳥の仮面脱げば美形やカーニバル
沼底にも春の闇にも扉あり
空母ゐて記念切手のやうな夏
帰国子女てふ古き言葉や冬薔薇
カメリアの山を越ゆれば紛争地
初夢や人々は舟我は岸
爪先と地核との距離寒稽古
巻貝の中うおんうおんと夏に入る
横須賀線極暑の首都の腸に入る
弾痕の塀を背中にマンゴー売る
全山に蒼白な百合立ち上がる
死より始まる小説多し立葵
煮湯落としの塔持つ城や鶸の声
吊るさるる兎足だけ毛を残し
草野早苗(くさの・さなえ) 1954年、東京都生まれ。
芽夢野うのき「花八つ手母はよく書きよく動き」↑
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