2021年4月30日金曜日

阿部鬼九男「世紀このしぎ焼のノエシス・ノエマ」(『黄山房日乗』四月三十日)・・・

 


                 1986年4月30日↑


三十日、北里行、都合により延期。チェルノブイリ原子力事故拡大の模様。人間の驕りの警鐘にしても酷きことなり。

予言句(四月二日、三日)早や的中し、効力を失ふ。更に予言より予言を試みるべし。


    世紀このしぎ焼のノエシス・ノエマ   阿部鬼九男


*『黄山房日乗』へ35年後の剽窃譚・・・


       4月30日(金)・・・晴


 「北里行」は、折笠美秋が入院していた北里大学病院(神奈川県相模原市)のこと。

 予言句とは、本書『黄山房日乗』4月2日「『今夜は眠れ』明日は火垂る魚を見よ」と、3日「キエフなる天門に聴く春の雨」の句。とりわけ、キエフはウクライナ(チェルノブイリ)の首都である。鬼九男自身が言うくらいだから、何か暗示めいたものを感覚したのであろう。

 句の「鴫(しぎ)焼」は茄子田楽、夏料理。ノエシス・ノエマは、ギリシャ語で、フッサールの現象学において、精神作用をいう用語「考える」(noesis=ノエシス)と「考えられたもの」(nona=ノエマ)。


    椎の木の思惟 油にもどす世紀末    大井恒行



        撮影・鈴木純一「藤くちて冥府にみちる馥郁と」↑

2021年4月29日木曜日

山﨑十生「躱すもの多くふらここより発てぬ」(「紫」5月号と山﨑十生俳句展)・・・

 


 「現代俳句への招待/山﨑十生 俳句展」(上掲写真)、会場は、さいたま文学館桶川市民ホールギャラリー(JR桶川駅西口5分)。当初の予定をコロナ禍により縮小して、来る5月1日(土)~5月3日(月)10時~16時の開催される(感染対策を十分に行い実施する、とありました)。

 お近くの方は立ち寄られてはいかがだろうか。ともあれ、以下に「紫」5月号の「龍門集」より、一人一句を挙げておきたい。


   揚雲雀地球に少し力借す       山﨑十生

   蘖はもう根っからの抽象派     渡辺まさる

   寒落暉の他は写らぬ吊り鏡      鈴木紀子

   水の辺に嘆きて太郎の樹となりぬ   関口晃代

   拒み得ぬ迷彩服や多喜二の忌    若林波留美

   渾沌を深めつつ水温みけり      森壽賀子



★閑話休題・・山本敏倖「枯蟷螂まだ敵対をつづけるか」(「東京都区現代俳句協会会報」第186号より)・・・

 「東京都現代俳句協会会報」第186号によると、山本敏倖は、新年度にあたり、東京都区現代俳句協会会長に就任したとあった(現代俳句協会年鑑部長にも新任)。その挨拶に、題して「禍における継ぐから繋ぐへ」と述べていた。前出の「紫」主宰・山﨑十生は、埼玉県現代俳句協会会長である。いずれも「豈」同人であるが、ついでに記しておくと、「豈」発行人・筑紫磐井は、今年四月から、現代俳句協会副会長に抜擢され、就任した(俳人協会では評議委員である)。いよいよ現代俳句協会と俳人協会を統一しての、俳壇支配?も夢ではなくなりつつあるようだ・・・(まさか、戦前の日本文学報国会俳句部なんぞにはなってもらいたくはないが)。ついでに記しておくと、同じく「豈」同人のなつはづきは研修部長に就任である。参与には、橋本直も川名つぎおも居る。一同人誌にしか過ぎない「豈」が、現俳協の要職を占めている???。ともあれ、区会報に掲載されている幾人かの句を以下に挙げておきたい(兼題は「寒北斗」「冬北斗」に自由題)。


    ふるさとの汚染土の丘雪景色     川崎果連

    寒北斗明日が無限にあったころ   白石みずき

    セーターの穴から見える少年期    磯部薫子

    餅おぐるからけえるなと母の声    高橋透水

    どんど火は男の匂い風焦がす     青木栄子

    寒北斗眺めて家族らしきもの     今野龍二

    凍蝶のかすかに笑ひ懸想する     松澤雅世

    自由律碑ねそべって寒北斗    佐々木いつき

    除菌して成人の日の皮膚呼吸    栗原かつ代

    寒北斗天の茶会の始まれり    長谷川はるか

    夫と買ふ揃ひのベレー探梅行     宮川 夏

    息すれば曇る眼鏡や初山河     松田ひろむ

    誰もみな母から生まれ冬あたたか   西本明未



     撮影・芽夢野うのき「佐保姫の魂の出入りもスカイツリー」↑

阿部鬼九男「抽出に溺るるものを沓手鳥」(『黄山房日乗』四月二十九日)・・・

 


                1986年4月29日↑


二十九日、牧羊社〈精鋭句集シリーズ〉の出版記念会(四谷)胃痛み、二次会欠席。ソ連の原子力発電所の事故報ず。

“吊し“の件にて、参考のため、漱石の『猫』読み直す。面白き説明。


     抽出に溺るるものを沓手鳥     阿部鬼九男


*『黄山房日乗』へ35年後の剽窃譚・・・


      4月29日(木)・・・午前、細雨


(四谷)とあるのは、四ッ谷駅麹町口前の主婦会館のこと。愚生も参加していたのだが、鬼九男と会った記憶がない。精鋭句集シリーズは、当時20~30代の俳人たち、確か12名で、いわゆる前衛の夏石番矢『メトロポリティック』も入集していた。現在は、このシリーズの皆さんは、俳壇の重鎮の域に達しておられるから、編集者(現・ふらんす堂 山岡喜美子)の慧眼、見事だと思う。

 またまた“吊し“の件だが、『猫』は『吾輩は猫である』。その第3話に、苦沙弥の家で寒月君が来て物理学の演説の練習に、超俗凡俗な「首吊りの力学」を二人の女が同距離に釣られると仮定しての、数式を表わし、それにかかる重力を説明する、その演説の練習を、妻君とその主人、主人は「非常に丁寧な撫で方」で吾輩の頭を撫でながら、各国の古代からの処刑にまつわる絞殺の方法について、あれこれ会話を交わしている。鬼九男は、この場面を再読しているのだ。

 句の沓手鳥(くつてどり)はホトトギスの異称。


     不如帰チェルノブイリにみまかれる   大井恒行



      撮影・芽夢野うのき「鈴蘭島へ舟が紐ひく鳥の恋」↑

2021年4月28日水曜日

阿部鬼九男「一睡の釣糸を垂れ吾むらさき」(『黄山房日乗』四月二十八日)・・・

 


                 1986年4月28日↑


二十八日、j・レ―『新カンタべリー物語』 連休慌しさ知らず、知らうともせず。

外来果実より始まった“吊し“の問題、引力に及ぶ。距離の二乗に反比例する力の、〈距離〉とは何か。天球如何に?


    一睡の釣糸を垂れ吾むらさき    阿部鬼九男



*『黄山房日乗』へ35年後の剽窃譚・・・

  

        4月28日(水)・・・晴のち曇


  鬼九男は行きつけの書店で見つけた、新刊のジャン・レー『新カンタべリー物語』(創元推理文庫・篠田知和基訳)を買ったのだろう。ジャン・レー(1887~1964)は、「人も知るベルギー最大の幻想作家である」(訳者あとがき)。また、「ジョン・フランダースの別名で主として子供向けの冒険譚を書きまくり、(中略)大げさに言えば一日に一冊くらい書いた作家である」(同前)という。

  「外来果実より始まった“吊し“の問題」は、本書18日のパッションサラダ、つまりパッションフルーツ(パッション・フラワーの実)ドレッシングサラダ由来で、パッション(Passion)は情熱の意よりも受難を表わしている(十字花の時計草=パッションフラワー、磔のキリストの徴)。ならば、いわゆる地上から想像される天球にそれは通用するのか?と問うているのであろうか。


      一炊の夏のとなりに汝と我   大井恒行  



       撮影・鈴木純一「母が食うバナナの黒くなったところ」↑

2021年4月27日火曜日

阿部鬼九男「影の女の今日的な脱臼であり」(『黄山房日乗』四月二十七日)・・・

 


                 1986年4月27日↑


二十七日、大岡昇平『成城だよりⅢ』楽しく、ときに痛快。中村真一郎『夢のなかへの旅』愚作、途中放棄。

批評の怖さは終焉のないことだ。既成史観が論理の増殖を害せぬやう。昨夜の高橋悠治の曲、譜面見たしと思ふ。


     影の女の今日的な脱臼であり   阿部鬼九男


*『黄山房日乗』へ35年後の剽窃譚・・・


        4月27日(火)・・・晴


『成城だよりⅢ』(文藝春秋)は、「文學界」1985年3月から86年2月号までの連載をまとめた公開日誌風エッセイ(批評は辛口、なかなか苛烈である)。4月1日に始まる8回(8日分)の見出しは「4 批評の季節」。

 『夢のなかへの旅』(思潮社)は「一九八四年「すばる」誌上に三回にわたって、分載された」(あとがき)で中村真一郎は「小説の中でより、こうした抒情的な物語のなかで、より親密に自分自身の秘かな観念や映像と戯れることができて、幸福である」と述べているが・・・。

 高橋悠治(1938年~)は、作曲家・ピア二スト。高橋アキは実妹。1978年、タイの抵抗歌を日本に紹介するために「水牛楽団」を結成、「山谷越冬闘争支援集会」「金大中らに自由を!新宿コンサート」などで演奏。1983年以後は、コンピュータとデジタル・サンプラーによる作曲、ライブなど即興演奏をおこなった。鬼九男がわざわざ譜面を見たいと思った曲は、いったい何の曲を聞いたのだろう。 

 句の「影の女」とは、もしかしたら逆説で、リヒャルト・シュトラウス作曲のオペラ「影のない女」が、発想の元にあったのかも知れない。

 余計なことなれど、本日、本ブログのこれまでのアクセス数の合計が40万を超えた。日日の積み重ねもなかなか馬鹿にできない。筑紫磐井に勧められて、ブログ俳句新空間の庇を借りて始めたのが約6年半前のことである。


    愛が溶かせる石の男や影なき春     大井恒行     



      撮影・芽夢野うのき「春嵐カモメ吹かるる令和岸」↑

2021年4月26日月曜日

阿部鬼九男「ババリアに雨を降らせる遺失物」(『黄山房日乗』四月二十六日)・・・

 


                 1986年4月26日↑


二十六日、高橋アキ、山口恭範らのサウンド・スペース・アーク(赤坂)委嘱作品、石井眞木、近藤譲、莱孝之。

会場で、ブライヤーズと話し、サインも貰ふ。この魚河岸の大将の関係的音楽は一種のワナ、共犯を誘ふが・・・。


      ババリアに雨を降らせる遺失物   阿部鬼九男


*『黄山房日乗』へ35年後の剽窃譚・・・

  

        4月26日(月)・・・晴


 (赤坂)はサントリーホールか?1972年、高橋アキは、現代音楽演奏グループ「サウンド・スペース・アーク」を結成。

 ギャヴィン・ブライヤーズ(1943年~)は、イギリスの作曲家で、コントラバスの演奏家。ブライヤーズは1969年、1912年に北大西洋に沈んだタイタニック号の甲板上で、最後まで演奏を続けていた楽団員たちの演奏を、生き残った人たちの証言をもとに再現しようと書いた作品『タイタニック号の沈没』により世に知らるようになった。1975年のレコーディングの際には、実際の楽団と同じ6弦構成で25分間、讃美歌「オータム」を繰り返し演奏したと伝えられている。1985年には、アニメ映画・宮沢賢治『銀河鉄道の夜』では、讃美歌「オータム」、「主よ、みもとに」として描かれたという。

 愚生の不案内ゆえに、「この魚河岸の大将の関係的音楽」についても、よく分からないのだが、ブライヤーズを大将に見立てての、ここ数日の日乗に、繰り返し登場している現代音楽に関する、ミニマル・ミュージックを指してのことかも知れない。 

    遺失物かのはるかなる秋にこそ   大井恒行



撮影・鈴木純一「リンカーンはアメリカン・コーヒー三杯で夜も寝られず鬱々とする」↑

2021年4月25日日曜日

阿部青鞋「肉体のつめたきところ夏に入る」(『阿部青鞋俳句全集』より)・・・


 

『阿部青草鞋俳句全集』(暁光堂俳句文庫)、目次裏の凡例には、

一、本俳句全集では、阿部青鞋(あべ・せいあい』の句業全体を見渡すことを目的として、既刊句集のうち左記の句集における青鞋の俳句、歌及び文章を収録した。

『武蔵野抄』  昭和一六年 教材社(『現代名句集』より

『句壺抄』   昭和三二年 三元社

『阿部青鞋集』 昭和四一年 八幡船社

『花門集』   昭和四三年 八幡船社

『樹皮』    昭和四三年 瓶社

『続・火門集』 昭和五二年 八幡船社

『霞ヶ浦春秋』 昭和五四年 私家版

『ひとるたま』 昭和五八年 現代俳句協会   (中略)

三、補遺として『ひとるたま』以降の「俳句」「俳句研究」に収録された作品を収録した。

四、自選句集『火門私抄』(昭和五七年・手帖社)については、他句集からの選集であるため、本俳句全集での収録は割愛した。  (以下略)


 とある。本著には頒価も連絡先も記されていない、個人の方の労作だと思うが、印刷・製本に、「製本直送.com」とあるので、オンデマンド出版の類いなのかもしれない。その他、「俳諧歌・随想」「略年譜」がある。体裁はB六判並製本380頁、手元に置き、阿部青鞋のおおよそを知るには、有り難い書である。ちなみに編集・発行所は大穂汽水(暁光堂)とある。ここでは、青鞋の随想のなかの一節を以下に引用しておこう。


 俳句は或る精神が十七字になるかならぬかではなく、それを十七字にするかしないかである。そういう最後に俳句がある。

 文学や詩で俳句をつくるのではなく、俳句で文学や詩をつくるのである。いわゆる文学や詩にならない文学や詩を創るのである。又、俳句の優位性は詩であることではない。俳句であることだ。


 ともあれ、刊行すみの青鞋句集以後、これまで句の収録のなかった「補遺」より、いくつかを以下に挙げておきたい。


    動かせばなるほど指は霧になる      青鞋

    金魚屋のなかの多くの水を見る

    乱暴に半分だけが紅き桃

    穴釣りのかりそめに見る右ひだり

    にはとりの悲しきにぎりこぶしかな

    元朝のねりはみがきをしぼりだす

    にんげんの肉体夏に入りにけり

    元日の午前はいつか午後になり

    ひぐらしのどれかおくれて鳴き終る

    下向いてをれば満月のにほひがする

    空蟬やわが国籍は地にあらず


 阿部青鞋(あべ・せいあい) 1914年11月7日~1989年2月5日 享年74.東京市渋谷区生まれ。別号・羽音(うおん)。



      撮影・芽夢野うのき「俄か朝型にわか彩りパンジーも」↑ 

阿部鬼九男「寂滅に甚だ近きさるのこしかけ」(『黄山房日乗』四月二十五日)・・・

 


                 1986年4月25日↑


二十五日、「騎」Ⅴ号着。安井浩司、埴谷雄高の世界を解き、夏石番矢と拙句集を評する。埴谷対談集通読中の暗号。

埴谷に〈念速〉のことばあり。最近、当方から安井へも二度の電波のことあつたやうで、〈意識〉に就き思ひ巡らす。


     寂滅に甚だ近きさるのこしかけ   阿部鬼九男


*『黄山房日乗』へ35年後の剽窃譚・・・


         4月25日(日)・・・曇


 「騎」第Ⅴ号(1986・3)には、安井浩司「最後の審判に向かって—ふたつの句集ー」が掲載されている。夏石番矢『メトロポリティック』(牧羊社)と阿部鬼九男『夏至殺法』(端渓社)である。その末尾に安井浩司は「(前略)俳句の世界に『ヴィジョン』にも似た思いがけぬ世界図を組織してくれるのではないか。それは冒頭にも述べた埴谷の漆黒の『時空』と、最後の照応を遂げてくれるかも知れない。阿部鬼九男は、誰よりもその車軸の近くにいると思う。昼の月皆扉(と)を閉ざし来るものを漂母はやふるさとを鐘渡りける馬光る闇もて以南に叶べし  鬼九男」と記している。

 今朝、小野市教育委員会から第13回・小野市詩歌文学賞受賞者の便りが届いた。

 受賞者は、短歌・島田修三『秋隣小曲集』と俳句・大石悦子『百囀』である。なお、6月5日(土)に予定されていた「第十三回小野市詩歌文学賞・第三十二回上田三四二記念『小野市短歌フォーラム』」の開催は、新型コロナウィルス感染拡大のため中止だそうである。


     こしかけるあれ一飯の漂母かな    大井恒行



   撮影・芽夢野うのき「こでまりの群れをはなれた鞠ひとつ」↑

2021年4月24日土曜日

阿部鬼九男「宇宙缶なる煮凝りのフェスタ」(『黄山房日乗』四月二十四日)・・・

 


                1986年4月24日↑


二十四日、近藤譲+ムジカ・プラティカ「音楽 今ロンドンで」(横浜)G・ブライヤーズ来日、自作指揮。

ミニマル・ミュージックのみならず、問題となるのは可測されてしまう時間だ。


    宇宙缶なる煮凝りのフェスタ     阿部鬼九男


*『黄山房日乗』へ35年後の剽窃譚・・・     


         4月24日(土)・・・晴

 近藤譲(こんどう・じょう)は、1947年、東京生まれ。当時、アンサンブル・ムジカ・プラティカを率いており、著作に『線の音楽』(朝日出版社)があった。その本を取り出して、阿部鬼九男は、「まず、一つ目の音が頭に浮かぶのを待ち、二つ目の音は、その一つ目の音を聞くことで生まれ、それから、一つ目と二つ目の音を聞いて、三つ目の音が生まれる。さらに四つ目の音が生まれて、聞く。それって、俳句の言葉と同じだよね・・・」というようなことを言っていた。「ただ、俳句は形があるから、そこで終わりを迎えることができる」とも。
 愚生は、本日は夜勤。東京都は、新型コロナまん延感染拡大による3度目の緊急事態宣言を明日から17日間(5月11日まで)の発出を決定した。休業要請がこれまでより拡大される模様。

    スペースに一切はあり煮凝り   大井恒行


 
       撮影・鈴木純一「藤しづか何も起こらぬ何も終らぬ」↑

2021年4月23日金曜日

阿部鬼九男「昧爽 木皮草根非望を舐る」(『黄山房日乗』四月二十三日)・・・

 


                 1986年4月23日↑


二十三日、R・レンデル『身代りの樹』ついでに『マンダリンの囁き』 端渓社へ第二稿。

不整の体より少しづつリズムを引き出す。夜型を時折朝型に変更、朝四時半頃から仕事。騙しの遊戯(ジユ―)


     昧爽 木皮草根非望を舐る     阿部鬼九男


*『黄山房日乗』へ35年後の剽窃譚・・・


       4月23日(金)・・・晴

 ルース・レンデル(1930年2月17日~2015年5月2日)はイギリスの推理小説家。サスペンス『身代りの樹』(秋津和子訳)、『マンデリンの囁き』(吉野美恵子訳)はともに早川書房刊。代表作はウェクスフォード主任警部を主人公とするシリーズ。早川文庫の小池真理子の解説「R・レンデル—伝統的悲劇の演出家」によると、シリーズものではなく、ノンジャンル、つまり『身代りの樹』(英国推理作家協会賞シルヴァー・ダガー賞受賞)などに本領がある。「ルース・レンデルの一連の作品に対して「『息苦しい』『体調の悪い時は読まない方がいい』『読後感が悪すぎる』などの、いささか冷静さを欠く論評が数多く見受けられるのは、一ファンとしていつも残念に思っている」と記されている。

    非望(じゆう)を抱きあかつきに眠る春  大井恒行



      撮影・芽夢野うのき「あなひとり矢車草目立って困る」
  

2021年4月22日木曜日

阿部鬼九男「天体を聞くは三年春をしぐれ」(『黄山房日乗』四月二十二日)・・・

 


                1986年4月22日↑ 


二十二日、J・ドラノア『サン・フィアクル殺人事件』旧作公開(新宿)J・ギャバンのメグレもの。

主題に変ずることの出来ぬ怪(け)。想像力の中で大切なのは否定の力だ。


      天体を聞くは三年春をしぐれ    阿部鬼九男


*『黄山房日乗』へ35年後の剽窃譚・・・


          4月22日(木)・・・晴


 映画『サン・フィアクル殺人事件』(1959年制作、監督・ジャン・ドラノワ)は、ベルギーの作家ジョルジョ・シムノン原作のメグレ警視の映画化。フランスの名優ジャン・ギャバンが演じた。サスペンスミステリーの定番。

 「天体を・・・」の句について、阿部鬼九男の脳裏には、病床にあった折笠美秋「天体やゆぶべ毛深きももすもも」があったかも知れない。


     天体に差し入れし身や嘆き舟     大井恒行




撮影・鈴木純一「筍の先の緑は夢であったか」↑

2021年4月21日水曜日

阿部鬼九男「秘曲難しあれメレンゲの花まつり」(『黄山房日乗』四月二十一日)・・・

 


                  1986年4月21日↑


二十一日、J・S・バッハ『ゴールドベルグ変奏曲』G・グールド再録盤CD買ひ換へ。“奇妙な果実“

ファッションは吊るしの季節。ギャル数人、縄にて吊るしたら定めしよき眺めとならん。グールド風な偏執。


    秘曲難しあれメレンゲの花まつり    阿部鬼九男


*『黄山房日乗』へ35年後の剽窃譚・・・


          4月21日(水)・・・晴

 1930年8月、リンチにより虐殺された二人の黒人が木に吊るされた写真が新聞に掲載された。それが“奇妙な果実“という曲(ルイス・アレン作詞、作曲)になった。1939年からビリー・ホリディは、この曲を歌い続ける。当時、黒人の虐殺を告発する歌を黒人女性が唄うのは危険すぎる行為だった。彼女は、のちに「タイム」誌に初めて写真が掲載された黒人となった。
 「ファッションは吊るしの季節」以下の文言は、皮肉であろう。「グールド風な」というのも、ピアニストのグレン・ハーバート・グールドが、演奏会を否定し、やがてコンサート・ドロップアウト以降、録音による行為に執着したという。そのため、テレビやラジオを活用した。そして、巷間、グールドのもっとも大きな功績は、バッハ演奏における新たなスタイルや解釈を世に示したことと言われているらしい。

     花の秘曲 変奏されしボケの花  大井恒行
    
       

 
    撮影・芽夢野うのき「根釈迦猫なり此処新緑の出入り口」↑

2021年4月20日火曜日

阿部鬼九男「皆帰る朝にオノコロ島を生む」(『黄山房日乗』四月二十日)・・・

 


                1986年4月20日↑


“A Dictionary of Euphemisms“読了。雑益あり。昨夜のパーティ、胃に疲れ。

厩橋城址にサーカスひらく夢。身体不調のとき見た幼時の夢、復活する。宙より多色の綱あまた。


    皆帰る朝にオノコロ島を生む    阿部鬼九男


*『黄山房日乗』へ35年後の剽窃譚・・・


      4月20日(火)・・・晴

“A Dictionary of Euphemisms“ Oxford University Press)、ペーパーバックであるが、愚生は、日本語はおろか、外国語などはからきしダメな部類だが、阿部鬼九男は原書で読んでいる。
厩橋城(まやばしじょう)は、鬼九男の故郷の近くの前橋城(まえばしじょう)のこと。子どもの頃、その城跡でサーカスの興行があり、見に行ったのだろう。
句のオノコロ島は、イザナギ、イザナミが引き上げたアマノヌボコの矛先から落ちる潮の凝ってできた島。すなわち我が国生みの神話。

    滴りのアマノヌホコや海月なす    大井恒行



          撮影・鈴木純一「無間から浮き上がるとよ山ざくら」↑

2021年4月19日月曜日

阿部鬼九男「棒切レモッテ戦へバ カナラズ日暮レ」(『黄山房日乗』四月十九日)・・・

 


                 1986年4月19日↑


十九日、アメリカのリビア攻撃に、依然、為政者・マスメディア揃つて論評を避く。言質ためるごときも不届き。

言ふべきときに何も言はぬは禍根残るべし。俳壇でも見慣れた風景は、樹木も繁らず、鳥も来たらず。


     棒切レモッテ戦へバ カナラズ日暮レ    阿部鬼九男


*『黄山房日乗』へ35年後の剽窃譚・・・


        4月19日(月)・・・晴

  当時、アメリカ空軍と海軍、加えてイギリス空軍のトリポリへの攻撃は15分間、レーザー誘導爆弾など300発、ミサイル48発で成功したが、各国の非難を受けた。
 病床の折笠美秋は、現代俳句協会賞の受賞に際して(一度目は、病を得る前のこと、いまだ、自身に満足する句無しとして辞退したことがあった)、「その一節『支持して下さった選考委員諸賢はむろん、断乎反対された委員も居られるであろうその方にも、深く敬意を表したい。等しく、矮小な党派性のみ先行しがちな俳壇の風潮を排除して、協会の権威堅持に心砕きつつ、各作品に対峙されたと信ずるから』と爽やかであり、かつ、今日の俳句の世界へ鋭い矢を放っている」と「騎」(5号・1986年3月)の編集後記(坂戸淳夫)に記されている。俳句はいわゆる「結社の時代」を喧伝する時代に入っていた。
 昨夜、ミャンマーで日本人ジャーナリスト・北角裕樹氏(元日本経済新聞の記者、現在はフリー)が治安当局に拘束され、兵士と警察官が彼の住むアパートに押し入り、部屋の物も押収されたと伝えられている。去る2月にも抗議のデモ取材中に拘束されており、今回が二度目の拘束。ミャンマーでは2007年にも映像ジャーナリストの長井健司氏が、国軍兵士に銃撃され死亡している。ご無事を祈るしか愚生には手立てはない。

     日暮オソロシ 少年ノ日ノ野山   大井恒行     



     撮影・芽夢野うのき「冷えてます椿の朝の素足です」↑

2021年4月18日日曜日

阿部鬼九男「言ひ果ての籠耳否とよトロの妻」(『黄山房日乗』四月十八日)・・・

 


                  1986年4月18日↑


十八日、「環礁」へ〈均質な日常と美意識〉六枚半。大局観、大切なるが故に。

このところ外来果実一種づつ買ひ帰る。今夜は、刺身とパッションサラダ。“奇妙な食卓“もそろそろホリディ。


    言ひ果ての籠耳否とよトロの妻    阿部鬼九男


*『黄山房日乗』へ35年後の剽窃譚・・・


           4月18日(日)・・・晴 
 
 「奇妙な食卓」は、1976年からTBSラジオで放送されていた番組「夜のミステリー」で、ミステリー、SF、ホラーのラジオドラマを専門的に放送していた。中断後、1986年「ミステリーゾーン」に改めて復活した。それを集めた本が『奇妙な食卓』だった。
 阿部鬼九男は料理が得意だった。世界を旅しているとき、現地の台所に、最初に入れてもらっては仲良くなっていたらしい。愚生のみでなく、彼の手ずからのフランス料理のコースをご馳走になった方々も、たくさんおられたことだろう。

    籠耳(かごみみ)のかごめ模様や暮の春   大井恒行



                      撮影・鈴木純一「咲いた牡丹は奈落へおちる」↑

2021年4月17日土曜日

阿部鬼九男「率直(フランク)に藤擬きヴァンㇳゥイュのそなた」(『黄山房日乗』四月十七日)・・・

 


                1986年4月17日↑


十七日、体調ふたたび下降気味。月評の材料整ふ。俳論、相も変わらずつまらぬ自然合一ばやり、句誌抛る。

菜畑に蝶は自然だが、庭に犬は不自然と言ふ如し。目薬的自然愛。当方、十二指腸にメサフィリン。不自然しよう。


   率直(フランク)に藤擬きヴァントゥイェのそなた  阿部鬼九男


*『黄山房日乗』へ35年後の剽窃譚・・・


        4月17日(土)・・雨

下句部分の「ヴァントゥイェのそなた」は、愚生がかつての若き日、全く読み通せなかったマルセル・プルーストの『失われた時を求めて』の中に出て来る架空の作曲家の名である。どうやらそのCDが出ていて『ヴァントゥイェのヴァイオリン・ソナタというらしい。ただ、このCDは、後世の人(マリアとナターシャというミルシュテインの姉妹)が選んだ楽曲で構成・演奏されていて、某氏曰く、その演奏が実に素晴らしく、音楽で綴った「失われた時を求めて」を妄想させる、という。であれば、句中の「藤擬き」もうなづけるというものだ。「藤擬き」という花も丁子桜(チョウジサクラ)の別名で、その花は有毒で、薬草にもなるらしい。もとよりジンチョウゲ科だから芳香。
 今夕、新型コロナウイルスの国内感染者は4802人、4日連続で4000人を上回り、2回目の緊急事態宣言が解除された3月22日以降で最高となった。大阪府は5日連続で1000人を越え、重症者病棟は昨日から満床を超えてしまっている。東京都も759人で2か月ぶりに700人を上回った。我が府中市配信メールによると、高齢者向け、今回の960人分は、二つの接種会場でのすでに定員に達し、今後順次接種券を発送とあった。

    合一に届けよ丁子桜また藤擬き      大井恒行
   


    撮影・芽夢野うのき「愛痛しつつじ触れなば紅蓮にも」↑

2021年4月16日金曜日

阿部鬼九男「世紀末まで見附に記事なし梁燕」(『黄山房日乗』四月十六日)・・・

 

   

                 1986年4月16日↑


十六日、A=M・ミエヴェル『マリアの本』+J=R・ゴダール『今日は、マリア』(六本木)

映像とパロールの献身者の現代正統マリア伝。句作りの連中も、少しはゴダールの攻めを見倣ふべし。


     世紀末まで見附に記事なし梁燕    阿部鬼九男


*『黄山房日乗』へ35年後の剽窃譚・・・


          4月16日(金)・・・曇

1984年に制作された映画、ジャン=リュック・ゴダール監督『こんにちは、マリア』(フランス・スイス・イギリス合作)とアニタ=マリー・ミエヴィル監督の短編映画『マリアの本』(フランス・スイス合作)の二部構成された作品の日本で付けられたタイトルが『ゴダールのマリア』だった。
句の「見附」は能舞台の前方にある動作の目標となる「見附柱」のことか。「梁燕」の読みは「はりつばめ」か「うつばりつばめ」か・・。いずれにしても家の梁に巣を作って子育て中の燕で、我が子を思う親の深い愛情のこと、謡曲にある「梁の燕に至るまで、子ゆゑ命を捨つるなり」に由来していよう。
      
     鏡の間よりめぐらす春の黄金伝説    大井恒行




 撮影・鈴木純一「しじゅうからっけつ土地金欲しいツピーツピー」↑

2021年4月15日木曜日

阿部鬼九男「狼煙緑 祝祭の・眠りのジュネよ」(『黄山房日乗』四月十五日)・・・


                  1986年4月15日↑

十五日、端渓社へ第一稿。井伏鱒二『岳麓点描』 米軍機、リビアを攻撃。
アメリカに根強くある”目には目を”の姿勢。安手なヒロイズム神話も容易に壊はしはしない。

    狼煙緑 祝祭の・眠りのジュネよ     阿部鬼九男 

*『黄山房日乗』へ35年後の剽窃譚・・・


         4月15日(木)・・・晴

 「端渓社へ第一稿」とあるのは、本著の原稿のこと。つまり、4月1日からの半月分の日録が送稿されたことになる。そのことを、比喩的に表現して、新緑とともに、上句「狼煙緑」と書き留めているのではないか。井伏鱒二『岳麓点描』は彌生書房の新刊。この年(1986年)、ジャン・ジュネは『恋する虜ーパレスチナへの旅』を執筆、校正中に死去した(1986年4月15日)。この日の、ほぼ同時刻、リビアの首都トリポリを、米大統領レーガンが予告なく爆撃、標的は最高指導者・カダフィ。前日には、つまり1986年4月14日、シモーヌ・ド・ボーヴォワールが亡くなっている。従って、ジュネの死は、これらのニュースにかき消されていた。


     いちはやく葉桜冷えのまん延防止措置   大井恒行 




           芽夢野うのき「死神の髪へ一輪ハナミズキ」↑ 

2021年4月14日水曜日

阿部鬼九男「月遅れの詩法がミトコンドリアに残る」(『黄山房日乗』四月十四日)・・・

 


                 1986年4月14日↑


十四日、月曜句会(新宿) M・カムス『無垢なる聖者』試写(新橋)

概念が詩にならぬものではない。澱み易いから嫌はれるのだらう。少し優しく流してみる。


     月遅れの詩法がミトコンドリアに残る    阿部鬼九男


*『黄山房日乗』へ35年後の剽窃譚・・・


           4月14日(水)・・・雨

 月曜句会は、加藤かけい「環礁」系の阿部鬼九男が中心の句会だったのだろうか。手元にないが、たしかその句会を中心に「TeRRA'」という不定期の同人雑誌が出されていた(20号で廃刊・1986年10月4日付けハガキによると、廃刊するも当分の間、月一回の句かは、当東横線祐天寺駅前中華料理店「慶興」で、とあった)。参考までにTeRRA'同人名をあげておこう。秋田博子・阿部娘子・小南千賀子・篠原妙子・西口美江・秦規子・松本芙紀・山岡愛子・山口可久実・阿部鬼九男。
 マリオ・カムス監督『無垢なる聖者』は1984年制作のスペイン映画。ミゲル・デべスの同名の小説を原作にしたスペインの農村一家の物語。

     打電する春 アリジゴクの成虫のように  大井恒行



       撮影・鈴木純一「春水に混ぜてしまへば春の水」↑

2021年4月13日火曜日

阿部鬼九男「『夜は千の眼を持つ』魂に出入り口」(『黄山房日乗』四月十三日)・・・


                  1986年4月13日↑


十三日、マンハッタン・ジャズ・クィンテット(中野)フロントの切れ味、E・ゴメス好サポートなれど不満残る。

”新伝承派“と言はれてゐることは悪口と知るべし。この点、A・ブラクストンの方法を支持する。


    「夜は千の眼を持つ」魂に出入り口   阿部鬼九男


*『黄山房日乗』へ35年後の剽窃譚・・・


         4月13日(火)・・・曇のち雨

(中野)は中野サンプラザ。マンハッタン・ジャズ・クインテットは、スイングジャーナルとキングレコードの企画プロジェクトで、日本向けの活動が主だったらしい。1986年2月は3作目『マイ・ファニー・バレンタイン』でベーシストがアンソニー・ゴメス(元、ビル・エヴァンス・トリオ)だった。ただ、演奏に不満の残った彼は「この点、アンソニー・ブランクストン(フリージャズ)の方法を支持」と記している。
 上句「夜は千の眼を持つ」は、かつて鬼九男は英語の教師をしていたこともあるので、イギリスの詩人、フランシス・ウィリアム・バーディロンの英詩『Light』のフレーズから拝借したのではないだろうか。また同名の小説、それを映画化したテーマ曲の題名でもあり、ジャズのポール・デズモンドのナンバーのことであるかもしれない。とはいえ、下句「魂の出入り口」のフレーズから、たどって思うと、「夜は千の眼をもつ」は無数の星のことであるとともに、昼はたった一つの太陽を象徴しているともいえよう。

    魂の出入りの春やひかりは愛     大井恒行



   撮影・芽夢野うのき「花は葉にあらわに空の濡れるかな」↑        

2021年4月12日月曜日

阿部鬼九男「水薬賜ふ聖金曜日後一日」(『黄山房日乗』四月十二日)・・・

 


                 1986年4月12日↑


十二日、ヴィーン・オペラ『トリスタンとイゾルデ』(渋谷)G・ジョーンズ抜群、T・アダム健在。オケよく鳴る。

秀逸な演出。しかし、作品を解き明かされる喜びと、作品からの感動の持続力とは一寸訳が違ふ。ヴィーラント讃。


     水薬賜ふ聖金曜日後一日    阿部鬼九男


*『黄山房日乗』へ35年後の剽窃譚・・・


            4月12日(月)・・・晴

(渋谷)とあるのは、たぶん新国立劇場のこと。愚生は、オペラについても、からきし無知なのだが、阿部鬼九男の話によると、小泉純一郎は首相時代にもよく来ていたそうで、その時は、急に会場警備が厳しくなるので、分かると。また、オペラは総合芸術である、とも言っていたことを思い出す。エリザベス女王より「デイム」(男性ではナイトの勲位)の称号を贈られたイゾルデ役のギネス・ジョーンズ(グィネス・ジョーンズ)の声を讃え、テオ・アダムスにも・・。ヴィーラント讃、とあるのは、ワーグナーの孫で天才的な演出家と言われたというヴィーラント・ワーグナーのことではないか。
また、句中の「水薬」は「トリスタンとイゾルデ」に登場する媚薬からのものだろう。
本日より、5月11日まで新型コロナまん延防止措置、東京都に発令。

     騎士トリスタン断食の日の水薬    大井恒行



  撮影・鈴木純一「ユウゲショウ風が来たから揺れてあげる」↑

2021年4月11日日曜日

阿部鬼九男「記憶のふるさとに約束の木のぼり」(『黄山房日乗』四月十一日)・・・

 


                 1986年4月11日↑


十一日、日帰りで、伊勢崎から渋川へ。年来の約束に縛られた行動でひどく疲れる。

よそ者でしかない思ひ。萩原朔太郎は、そして高柳重信はこの赤城の風に何を思ったか。


      記憶のふるさとに約束の木のぼり     阿部鬼九男


*『黄山房日乗』へ35年後の剽窃譚・・・


       4月11日(日)・・・晴(朝夕寒暖差あり)

群馬県渋川は、阿部鬼九男の生地。朔太郎も生地。戦争末期、重信はそこに疎開していた。群馬県前橋には縁が深い。

      約束の顔出しにゆく乾反り葉の切通   大井恒行



       芽夢野うのき「躑躅ぎゅうぎゅう白き声だすや」↑

2021年4月10日土曜日

阿部鬼九男「四月の裏に聳つ時計塔の午後」(『黄山房日乗』四月十日)

 

             

                1986年4月10日↑ 


十日、神田に古書漁れど、さしたる収穫なし。綱淵謙錠の歴史随想ものほか。「騎」ゲラ出るとの報、委任。

日付マニアだったヴァーグナ—、そして、山田風太郎、大岡昇平、L・ダレルなど気になる存在だが・・・。


   四月の裏に聳つ時計塔の午後    阿部鬼九男


*『黄山房日乗』へ35年後の剽窃譚・・・


         4月10日(土)・・・晴


「騎」は、「俳句評論」終刊ののち、全身不随、自発呼吸ゼロ、発声不能(筋委縮性側索硬化症)の病床にあった折笠美秋を励ます意で創刊された同人誌で、当時のメンバーは、阿部鬼九男・岩片仁次・牛島伸・折笠美秋・川名大・坂戸淳夫・佐藤輝明・志摩聰・寺田澄夫・安井浩司。鹿児島の「むらさきばるつうしん」・岩尾美義による折笠見舞い基金も呼びかけられていた。この年の末に、立風書房から、折笠美秋著『君なら蝶に』が刊行されている。


    四月の風よわが生涯を吹き遊べ      大井恒行



   撮影・鈴木純一「むらさきのつゆともしらず行くいくさ」↑

2021年4月9日金曜日

阿部鬼九男「独活ごもり風は白道に耽り」(『黄山房日乗』四月九日)・・・

          

                 1986年4月9日↑


九日、J・ゴドウィン『キルヒャーの世界図鑑』 NG誌〈読書室〉へ吉田秀和のこと四枚半。

批評の忘れ物が台所にぶらさがっている。〈マイ・フェイヴァリット・シングス〉ただちにバイパスの準備。


    独活ごもり風は白道に耽り     阿部鬼九男


*『黄山房日乗』へ35年後の剽窃譚・・・


       4月9日(金)・・・晴(昨夕は一時雷雨あり)

-ジョスリン・ゴドウィンキルヒャーの世界図鑑 ― よみがえる普遍の夢』 (川島昭夫 訳 澁澤龍彦/中野美代子/荒俣宏 解説 工作舎 1986年4月刊)。吉田秀和(1913~2012年)はこの時期、音楽雑誌など多くの連載と、NHKーFM放送で「名曲の楽しみ」の司会などをしていた。NG誌は「グラフNHK」、「秀和のこと四枚半」は、NHK学園での仕事のかたわらでの執筆だろう。
「マイ・フェイヴァリット・シングス」はジョン・コルトレーンのアルバム。ミュージカル『サウンド・オブ・ミュージック』の一曲、訳題は「私のお気に入り」。

     風月の道に籠るや演奏家     大井恒行



   撮影・芽夢野うのき「大きくても小さくても白い花日和」↑