2021年6月6日日曜日

夏石番矢「人はもろい遠くのコロナ近くのコロナ」(『世界俳句2021』第17号)・・・ 



  ・俳画右下は「ソーシャルディスタンス/風船売りが/微笑みをささげる

           Tsanka Shishikova  Bulgaria ↑ 


  夏石番矢・世界俳句協会編『世界俳句 2021』第17号(吟遊社)、表紙には、「45か国32言語165人482俳句」と記され、「新型コロナウイルス特集」とある。他に「11か国13人俳画」とある。横文字が苦手というより、全く無知に等しい愚生にとっては、外国語の作品は和訳を読むしかない。作品のほとんどは夏石番矢の和訳が付されているので、それのみが愚生の理解の杖である(本書の半分は、つまり、和訳と同じ分量だけ原語で記されている)。特集のなかでは、ティム・ガーディナ— 英国「わび来たる!キャビン熱とコロナウイルス」(柴田絵梨子訳)の冒頭近くに、


 多くの命が失われたとき、国際的なコミュニティーが新型コロナウイルスのパンデミックに多様な反応を示したのは当然である。予想通り、たくさんの詩歌がネット上に、また紙上に溢れだした。ほとんどは玉石混交である。なんであれなにか書かねばと、詩人はすぐにペンをとり、発言すべきと思うことを記したのだ。しかし、多くの場合、私たちが目にしたのは明らかに賢しらな決まり文句か言葉遊びだった。それは、孤独、喪失、活動を強制的に制限されたライフスタイルに対する本物の反応、心からの反応ではなかった。欠落しているのは共感である。自己満足的な褒め合い文化のソーシャル・メディアの大海で失った感情的反応だ。パンデミックの際に連続して作句してきた俳人として、私は膨大な良作を生み出したが詩の本質を見失っていた。(中略)比喩的な斧が比喩的な扉に振り下ろされ、忍び寄るロックダウンの閉塞感は、記されるべきにも拘わらず、記録に残されていない。


 と、じつに示唆的に述べられている。また夏石番矢は「見えない戦争と俳句」と題して、


(前略)網あまねく広げられ/捕まった蝙蝠たち/フライパンで料理

 ベトナムの俳句詩人ディン・ニャットハインは、中国の蝙蝠がCOVID-19の中心的な原因と考えている。彼は正しいだろうか。正しいかもしれない。多数の国で、蝙蝠は悪と病気の象徴である。これとは反対に、蝙蝠は中国語で「蝙蝠」と書き、その二番目の文字「蝠」は、皮肉にも幸福を意味する「福」と同じく発音される。ウイルスに感染したものも含んだ生き物にとって、拡大は幸福。ディンの俳句はCOVIDO-19 の増殖を賛美しているのか。「フライパンで料理」された蝙蝠は、私たちに生命力を与えるのだろうか。現在、私たちは問題と混乱に満ちた現実に直面している。


 と記している。ともあれ、本集中より、愚生の知人に偏するが、いくつかの句を挙げておきたい(ここでは和訳のみ)。


  自宅に人々込みあい/壁に/影交差する    アブドゥルカリーム・カシッド

  パンデミック戦慄の姿/ロックダウン 6フィートの距離/われら再びどよめき叫ぶ

                          カルネッシュ・アグラワル

  立ちすくんでー/深い朽葉色の世界より/鹿の泣声   二―ル・ホイットマン

  多くの国で/自由さえ/コロナウイルスに攻撃される  クルト・F・スワテク

  画面に詩が/出すぎる/ウイルス付き?        ジャン・アントニーニ

  距離にもかまわず春の月          ティム・ガーディナー

  聖戦にとほく白シャツ出勤す        長嶺千晶

  たくさんの貧しい母親/不安な屋台商人/市場は閉鎖  ディン・ニャットハイン

  マスクせぬ男はきっと帰還兵        石倉秀樹

  死で始まる命 ベッドの中にも虹      古田嘉彦

  松の木に/新しい飾り/風がマスクを吹き飛ばす  ナデイダ・コスタディノヴァ

  愛は待つ/マスクが/落ちるのを        アレクサンドラ・イヴォイロワ

  六日在宅/よいマナーで/走りでる       バフティヤール・アミユ

  人はマスクを楯とし雀は朝のおしゃべり    夏石番矢  

  しらたまの塩/しんしんと/死に/詩を捧ぐ   林 桂

  シンデレラ眠らせカボチャの花は咲く     乾 佐伎

  星に生れて仰がれる淋しさよ         鎌倉佐弓

  追いかけて鬼ともなれず夏果てる       木村聡雄

  箸の上三日月すりぬける           野谷真治 

  人消えし街にわたしと春埃          鈴木光影

  コロナ後を語るは早し春の暮         鈴木伸一



     芽夢野うのき「言語化の基本は白や柏葉紫陽花」↑

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