2022年1月27日木曜日

永田和宏「恥毛までロマンスグレイになつたぜと告げたき人もいまはをらねば」(「現代短歌」3月号・No.89より)・・ 


 「現代短歌」3月号・No.89(現代短歌社)の特集は「永田和宏の現在」、総ページのほぼ半分を費やしている。目次には、永田和宏の巻頭作品50首、特集記事は、瀬戸夏子「河野裕子を詠む永田和宏を読むということ」、今井恵子「二つの『死後の時間』」、インタビュー1・土岐友浩「永田和宏の方法」、正岡豊「内実をめぐって」、染野太郎「わたしとは何か」、閒村俊一俳句作品「アカペラの 永田和宏歌集『置行堀』に寄せる極私的京都ラㇷ゚ソディ」、インタビューⅡ・澤村斉美「言葉の危機」、そして、これまでに上梓された第1歌集『メビウスの地平』から第15歌集『置行堀』までの歌集解題を、浅野大輝・鈴木晴香・帷子つらね・藤田千鶴・佐藤涼子・竹内亮・廣野翔一・田村穂隆・濱松哲郎・平出奔・山内頌子・河野美砂子・田宮智美・小林真代・沼尻つた子が執筆している。

 愚生にとっての永田和宏は、何よりも大本義幸句集『硝子器に春の影のみち』(沖積舎・2008年刊)の栞を、池田澄子、攝津資子、坪内稔典、仁平勝とともに、唯一の歌人、大本義幸の編集していた「黄金海岸」への寄稿、20歳代の付き合いで、たぶん二つ返事で書いていただいたであろう永田和宏「黄金海岸の頃」である。その末尾には、大本義幸の一句「初夢や象が出てゆく針の穴」が添えられていた。その大本義幸もすでに鬼籍に入っている。ともあれ、以下に本文中より、永田和宏の歌をいくつか挙げておこう。


 身をよじる全裸の青年をつつみ緑こそわれらが錯誤のはじめ    和宏

 あなた・海・くちづけ・海ね うつくしき言葉に逢えり夜の踊場

 あの胸が岬のように遠かった。畜生! いつまでおれの少年

 やさしさはやさしさゆえに滅ぶべし 夕ぐれの野を漕げる野あざみ

 置きざりに置いてきぼりに差のありてあなたが置きざりにした

 ときどきは覗きにおいでこの世にはきみの知らないをさなごがゐる

 墓を作ればここにあなたがゐなくなる会ひに行かねばならなくもある

 コロナ禍を生きるは幸せならざれどそれさへ知らぬきみをかなしむ

   BCI(脳コンピューターインターフェイス)の研究の進展に驚愕。

   個人といふ概念が崩壊する

 思ひ浮かべた言葉が画面に現はれる脳のチップが読みとると言ふ  




★閑話休題・・間村俊一「来歴を問はゞ播州みなし栗」(「横浜歌人会会報」122)・・


 間村繫がりで・・。「現代短歌」3月号・No.89に閒村俊一は、「アカペラの 永田和宏歌集『置行堀』に寄せる極私的京都ラプソディ」で句作品を寄せている。前書はほぼ短歌に付けかたちの句である。一方、横浜歌人会会報122では、すべてに前書を付した句作品である。例えば「現代短歌」の末尾の作は、


   アカペラの春歌も止みて寒の雨

 河原町三條師走すれ違ふダッフルコートは殿山泰司      俊一


 である。ともあれ、本会報の特集は、インタビュー「間村俊一さん、聞き手・髙橋みずほ『語る指先ー間村俊一の仕事場』」。句作品の「BNSYU」より、以下にいくつか挙げておきたい。


    真鶴に種村季弘さんを訪ふ

  干されたるヤガラの口も秋に入る        俊一

    おでんとは言はず

  さしぐみて関東炊きはふくろかな

    戦争や金田一軍靴冬

  蕪蒸しシベリアのこと母のこと

    朴の花末っ子千代子は母なるぞ

  備前美作(みまさか)より揚羽出奔す



     芽夢野うのき「冬蝶の沖のむこうの帆のごとし」↑

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