2022年1月14日金曜日

深悼・・安井浩司「鳥墜ちて青野に伏せり重き脳」(『自選句抄 友よ』)・・

            


  救仁郷由美子「安井浩司『自選句抄 友よ』の句を読むー深悼」(1)                        


    鳥墜ちて青野に伏せり重き脳      浩司


 掲句「墜ちて」に、高屋窓秋連作句「鳥世界」、富澤赤黄男の「蝶墜ちて大音響の結氷期」、中句の「青野」に島津亮の「怒らぬから青野でしめる友の首」、下五の「重き脳」に、河原枇杷男の句に頭脳的と言った永田耕衣を思い起こす。

 鳥は直線斜めに落ちるがごとき、草に身を隠す。静まる青野に伏す鳥を描く作者に、鳥と自己との同一の姿態を見る。『自選句抄 友よ』の第一句に掲出した「青野に伏せり」の句は、安井浩司第一句集、旅立ちの句集に収められている。「青野に伏せり」と鳥と同一化した作者の、この姿態から創造の旅へ出立が見えてくる。  

  


    逃げよ母かの神殿の歌留多取り  

 歌留多は歌かるたであろう。江戸期に流行する。神の住居である神殿での歌留多取りであるならば、万葉集に始まる和歌から離れよの意味と受け取られてもよいように思える。俳句の母なるものを仮想し、深い伝統の和歌から、一端は逃げて俳句の立ち位置を見てもよいのではないかと。しかし逃げを行う為には、西行などの和歌の世界に入り込まねばならない。その反語の意味も掲句は含んでいるように思える。



(愚生注:「自選句抄」は、全23句、経本仕立ての見開き部分に一句が墨書されている。奥付には、平成二十八年二月二十九日 傘寿 とある。安井浩司の誕生日である。救仁郷由美子は、その年、子宮頸がんステージ4、全摘出手術のため入院する。その励ましのために,託された酒巻英一郎によって手づからもたらされ、贈られたもの。以来、枕頭にあった。しかし、この稿をブログにアップして欲しいと、病床の救仁郷から頼まれたのは昨夜。あろうことか、先程、詳細不明なれど、安井浩司死去、享年85の訃がもたらされた。よって、上記稿の副題は「安井浩司を病臥を案じて」だったが、急遽「深悼」に改めた)


         撮影・鈴木純一「蠟梅のままと信じる雫かな」↑ 

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