平敷武蕉 俳句・紀行文集『風の黙秘』(南凕社)、紀行文は古いもので、1999年7月21日(水)~24日(土)の「バンコク・アユタヤ遺跡紀行」、最近のものは、2021年9月改稿(「南凕11号」)の「アンニョン ハセヨ 優しかった韓国の空」までの18編を収める。中には、かつては愚生と同じ「豈」同人であった西川徹郎の「西川徹郎文學碑除幕式に臨むー田中陽・森村誠一氏らと交流」(2014年5月)のエッセイがあって、愚生が、旭川の西川徹郎を訪ね、文學館や新城峠を越えた彼の寺や斎藤冬海に会い、平敷武蕉と同じように歓待してもらったことなどを思い出した。著者「あとがき」の中に、
この句集には、初期の句から、三四四句ほどを選んだが、お膳立てしてくれたのはすべて我が連れ合いである。アリガト。(中略)
表紙絵は、「南凕」会員の吉浜スミエさんが引き受けてくれた。この本のためにわざわざ描いて下さった心遣いに感謝するばかりである。絵は、傷だらけの地球が痛みのまま血を流している様子を喚起させる。まさに現今の地球の姿だ。希望は見えず、世界は病んでいる。新型コロナの逆襲が人類に追い打ちをかける。それでも風は怒らず、沈黙し、黙秘したままだ。だが黙秘とは、いつか目撃した事象を証言し、真実をあきらかにするための反撃の姿勢でもある。
とあった。連れ合いとは、平敷とし。俳句紀行では、としの作品もある。
漢字の国略字が片足で立っている とし
鰓呼吸で抜ける魔境峠のトンネル
原爆ドーム張り付いた空欠けたまま
内耳揺する桜雲海錦帯橋
薩摩侵攻城址も高江も地鳴りする
ところで、集名に因む句は、
風の黙秘不在の貌が月になる 武蕉
からであろう。ともあれ、俳句のなかから、愚生好みに偏するが、いくつかの句を挙げておこう。
敗走の海を飲むしかないジュゴン
主題はないさいているだけのハイビスカス
闘わぬ時代の沼で闘魚死ぬ
ダイオキシンここまでおいで風の岬
天空に死者の髪梳く大風車
いっせいに唖者泳ぎ出す慰霊の日
凌辱の闇に転がるコカ・コーラ
戦争のフェロモン放つスジボタル
軍隊の柩になった椰子の島
抗議する青年の耳のピアスの蛇
無数の虹が岬の首を絞めている
何故という問いのままに月尖る
昼月の弾痕隠さず原潜来る
平敷武蕉(へしき・ぶしょう) 1945年、うるま市(現具志川市)生まれ。
撮影・鈴木純一「泥舟を不沈と言うのはきつねだな」↑
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