三輪初子第4句集『檸檬のかたち』(朔出版)、著者「あとがき」の中に、
第三句集刊行の同年、夫と共に営んできた生業の居酒屋レストランが、地主の所見から立退きを要求され、閉店を余儀なくされた。四十三年間点し続けてきた灯が消える・・・。自己の存在する「かたち」の倒壊に譬えようのない喪失感を味わい、その儚さがあるものを思い浮かばせた。それは、切り裂かれる前の清しく美しい果実、レモンの「かたち」である。
そこで、句集の表題は本編にある一句から「檸檬のかたち」と決めた。
とあった。その句は、
切る前の檸檬のかたち愛しめり 初子
である。三輪初子に最初にお会いしたのは、たぶん、辻桃子の「童子」の関連行事だったように思う。辻桃子がまだ現代俳句協会青年部に居た頃だから、随分前のことだ。実は、三輪という姓は、愚生の母方の姓と同じだったので、それはすぐに覚えた。愚生は山口県生まれだが、その後も、三輪という姓の方には、三輪初子以外にお会いしたことはないので、きっと、珍しく、かつ少ない姓なのだろう。 ともあれ、以下に、愚生好みに偏するがいくつかの句を挙げておこう。
見えぬふり聞えぬふりのかたつむり
青バナナだれも触れずに熟しけり
白鳥に少し悲しみあづけをり
薄氷のなにも映さぬままこはれ
バンザイのあとの双手や昭和の日
雨粒の薔薇より落ちし涙色
石になる夢の蹴られしひきがへる
鬼の子もわれも太陽系に生まれ
おとうと逝く途切れなく降る虫しぐれ
黄の蝶は黄いろてふてふ追うてゐし
三輪初子(みわ・はつこ) 1941年、北海道帯広市生まれ。
撮影・芽夢野うのき「芭蕉の実きっと気分は飛んでをる」↑
0 件のコメント:
コメントを投稿