星野高士第6句集『渾沌』(深夜叢書社)、その帯には、
海市たつ辺りに波の音もなし
第五句集『残響』から八年、清新な抒情を鮮やかに掬う俳人・星野高士が円熟を深めながら拓く新境地ーー。
〈渾沌〉は可能性の揺籃ともいえる。然り、私たちは渾沌の世に、明晰かつ洒脱な精神で紡がれた三八七句と出会うだろう。
とある。また、集名に因む句は、
渾沌の世も平然とサングラス 高士
であろう。そして、著者「あとがき」には、
令和二年に「玉藻」は創刊九十周年を迎えることができた。折しも新型コロナウイルスのパンデミックの影響で、予定していた行事も中止や延期を余儀なくなれた。(中略)
そして令和四年は「玉藻」創刊千四百号を控えている。
何とかこの渾沌とした世の中を乗り越え、元の日常が戻ることを願うと同時に、この句集を少しでもお読みいただければ、私にとって最高の幸せである。
と記されている。ともあれ、以下に愚生好みになるが、いくつかの句を挙げておきたい。
寒鯉や水の重さを見せる底
春の野の端は果てとは思はざる
草笛の天与の音色とぎれざる
春泥に落日の幅ありにけり
中天に近づく孕雀かな
仮小屋に仮の土間あり神の留守
初夢を見たくて枕新しく
熊穴に入る山脈をなさぬ山
摘草の帰りの電車よく揺るる
砂浜に踏まぬ砂ある余寒かな
晩涼やバス待つときも山仰ぐ
メーデーに令和の夜明けなどはなく
箱庭にあるかなきかの昼の翳
紅葉且つ散る月山はどこも神
オリンピック玉藻九十年今年
星野高士(ほしの・たかし) 昭和27年、鎌倉市生まれ。
撮影・鈴木純一「なつあかね夏への扉あかねども」↑
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