「オルガン」29号(編集 宮本佳世乃・発行 鴇田智哉)、その座談会は「遠藤由樹子句集『寝息と鳥』(朔出版)を読んでみた」。その中に、
(前略)鴇田 何かになぞらえるみたいなものは、感覚として特異というか。〈冬の薔薇牛乳よりも静かなる〉は、静かさというものを牛乳で表現している。冬の薔薇と牛乳って、この人ならではの思いつき、結びつけだから。こういうものが結構あったね。
福田 いわゆるこう隠喩的な発想というか、比喩的な発想が結構多くて。そこは多分鍵和田秞子さんから繋がっている文脈の中でそうなってきたかなっていう印象を受けますね。鍵和田さんは隠喩的なモチーフでやってる句が多い気がしますね。
宮本 〈冬の薔薇牛乳よりも静かなる〉などは、かなわないなって感じがしますね。
鴇田 もしかしたら、たまたまそこに牛乳があってできたのかもしれないんだけど、こういうふうに結びつける、ひとつのレトリック。
福田 この句は人によって刺さるか刺さらないか随分違うんじゃないかな。僕、実はそこまで刺さらない。いや、悪い句じゃないと思うんだけどね。
宮本 薔薇と牛乳が一緒の空間にあったのかなと思ったんだけど、句になるととても面白い。
福田 目を惹く句ですよね。どうしても「よりも」が出てくると、富澤赤黄男の〈ペリカンは秋晴れよりもうつくしい〉が頭をよぎるんですよ。違う句なんですけどね。あれに比べると、薔薇と牛乳の対比は、僕にはそこまで魅力的に思えなくて。
とあった。あと、「オルガン」では、初めての両吟だという、浅沼璞と鴇田智哉の「オン座六句」がある。表六句のみになるが、以下に紹介しておきたい。福田若之の「留書」の最後には、「巻末の花の短句から挙句までの三句の運びは、蕪村『此のほとり一夜四歌仙』の其のニの巻を敬してのこと。蕪村の一巻と合わせて読むと、花橘の袖のことなども遠く思われて、反物のしおりがまたひとしお深まると思います」と結んでいる。
オルガン連句 両吟バージョン
脇起オン座六句「頭の中で」の巻
頭の中で白い夏野となつてゐる 高屋窓秋
奥へつらぬく蜘蛛のひとすぢ 鴇田智哉
倍音のギターはてんてんと参じ 浅沼 璞
オーディエンスが騒ぎはじめる 智哉
月蝕に興味がなくて飲める酒 璞
木賊をはかる為のものさし 智哉
同誌同号より、同人の一人二句を挙げておきたい(二句目はテーマ詠(「人物」)。
音楽がひゅるるる木耳になった 田島健一
水に手を入れ噴水を直す人 〃
袋角またはふたつの手のかたち 鴇田智哉
かほ洗ふときドローンの来てゐたる 〃
うつむけばずっと昼顔くじけそうだ 福田若之
声はとらつぐみあの灯もきっとひと 〃
家族の写真遠雷の一度きり 宮本佳世乃
いうれいがお腹を見せて立つてをり 〃
撮影・中西ひろ美「世の中が少しつらいと思うとき五七五と七七がある」↑
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