2022年12月24日土曜日

斉藤志歩「水と茶を選べて水の漱石忌」(『水と茶』)・・・

           


 斉藤志歩第一句集『水と茶』(左右社)、企画協力に佐藤文香。2014年から2022年までの256句が収められている。解説は岸本尚毅、その中に、


 俳句を作るとき、あるいは読むとき、どんなところに拘るのか。この句集にこんな句があります。

   手の甲にカーテン支ふ冬の月

(中略)日常の事柄をさりげなく詠った作品です。作者の感じたことがそのまま伝わります。この作品がもたらす作用は、「伝達」というより、「再生」に近いかもしれません。作者が拘って選んだ言葉が読者の想像力に働きかけ、作者の体験が読者の頭の中で「再生」されるのです。(中略)

   まだ黒くなる芋虫の骸かな

 生きものの死にざまをリアルに詠んだこの作品にも、作者の好奇心に満ちた眼ざしが感じられます。(中略)

 この句集を読んで感じられるのは、とにかく、作者が楽しそうであり、俳句を通じて人生を面白そうに眺めている、ということです。われわれ読者もまた、この作者が遭遇する俳句現象を、面白がって眺めようではありませんか。


 とあった。ただ、愚生に不満があるとすれば、現代仮名遣いの方が、斎藤志歩の作品は、より活きるように思われたことであった。「俳句は現代詩である」とは堀田季何の言葉だが、こうした、若い人の作品を読むと、やはり、俳句の言葉もまた、時代を負っていると思うのだ。ともあれ、愚生好みに偏するが、集中よりいくつかの句を挙げておこう。


  バーの名の光れる路を提げゆく

  けふは肉あすは魚に年忘

  山眠るゆふぐれの鳥ふところに

  冬雲や焼肉を締めくくるガム

  東風吹くや鞄を出づる犬のかほ

  つくし野のつくしのまばらなるところ

  散る花に風の行く手のつまびらか

  秋風やきりんの首のよく見ゆる

  長き夜やひとり暮らしのトイレに鍵

  霜月や呼べばすぐ来る待合せ

  冬林檎歌へばちがふ声になる

  

 斉藤志歩(さいとう・しほ) 1992年生まれ。


★閑話休題・・斉藤志歩「木の実落つ今は手元にこの栞」(「むじな 2022」通巻6号より)・・


 斉藤志歩つながりで、「むじな 2022」通巻6号(むじな発行所)、特集は「斉藤志歩句集『水と茶』」。執筆陣は西村麒麟「薔薇」、千倉由穂「暮らすことの朗らかさ」、暮田真名「(酒量と同量の)水と茶」、榊原絋「私は斉藤。俳句をやっています」。一句鑑賞は板倉ケンタ・今泉礼奈・松本てふこ・西村結子・田口鬱金・浅川芳直。以下に、一人一句を挙げておこう。


  集落に人影蜘蛛の狩しづか        浅川芳直

  飛びのいている人がいる亀の鳴く     有川周志

  言霊のまず枯れそうな春の風邪     一関なつみ

  副賞の一本は温泉でありぬべし   うにがわえりも

  夏椿を記憶の蓋にして閉じる      及川真梨子

  段ボール箱に匿ひ竈馬          工藤 吹

  わづらひて八月の果つ九月また      斉藤志歩

  つま先の先つぽにつぼ春を待つ      漣波瑠斗

  曰く付きの橋夕焼沈む橋         佐藤 幸

  初めてのキャッチャー役や水温む     島貫 悟

  風船を母星に帰らせてあげる      菅原はなめ 

  良宵や隣家の「♪オ風呂ガ沸キマシタ」 鈴木あすみ 

  等比数列第n項に蜂           鈴木萌晏

  子鯨のうねりゆっくり胎動く       須藤 結

  梅酒瓶抱へし胸に実の泳ぐ        田口鬱金

  春風や骨美しきアーケード        武 元気

  卒業す『To LOVEる』全巻返却し    谷村行海

  島国に一島ほどの夏の雲         千倉由穂

  春風やメンバーカラーの緑着る      千田洋平

  みつ豆の今嚙んだのは豆のとこ      西野結子

  あざあざと傘差す音の祭かな       弓木あき

  シニヨンが電車の窓に触れて霧      吉沢美香

  地下通路浴衣にマスクきゃらきゃらと   米 七丸

  藪漕ぎの腕に刺さりし夏薊        若井未緒 



         撮影・鈴木純一「落葉ふむ

                 誰も死なない映画だった

                 ね」          ↑

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