行方克巳(なめかた・かつみ)、昭和19年千葉県生まれ。句集『素数』(角川書店)は第七句集。「あとがき」に記す。
俳句の五・七・五と十七音、また短歌の三十一音、いずれれも素数である(藤原正彦氏)。一とその数自身の他に約数を持たない正の整数は無限に存在する。しかし私が常に求め続けてきた短詩型の五音七音の音数律が、素数に関連するという事実に、私は少なからず興味を覚えたのである。
序文は中西進。題簽の揮毫は津金孝邦。中西進はその序文「素数詩としての俳句」に述べる。
そしてさらに作者自身の身構えの上にも、素数的態度が要求されるはずだ。
右にいう素に生きる者こそが、素数詩の作者となる。
俳人は素数に生きよ。俳句は素数の如く物象を把握せよーーまずはこうした提言をわたしは行方から受け取る。
見事なる言挙げである。素数はともかく、いくばくのユーモアのしずくを思わせる趣の句が愚生には好ましく思われた。
ともあれ、いくつかの印象に留めた句を挙げておこう。
白菊や死に顔をほめられてゐる 克巳
啓蟄の男一匹出かねたる
六千ボルトの夏に感電してしまへ
骨肉を剥がれ晩夏の義手義足
晩緑といふべし大いなるは静か
鰭酒にだんまりの舌灼きにけり
白椿万巻の書のみな白紙
紙風船突くより叩き返すなり
嵐電の終電はやき春灯
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