2015年12月16日水曜日

田中千恵子「したいしたい戦争がしたい浮いてこい」(『天の棺』)・・・



田中千恵子は、いまどき珍しい骨太の句を書く人である。
掲出した「したいしたい戦争がしたい・・」の句も逆接表現、反語だ。
田中千恵子第四句集『天の棺』(新俳句人連盟)の序文は石川貞夫、解説は中村花木。いずれも田中千恵子の魅力をあますところなく伝えていると思われる。しかし、愚生らの、いわゆる社会運動からはすこし縁遠い人たちが読んでも、田中千恵子の句の持っている言葉の力は肯うことができるものだ。単にスローガン、イデオロギーの表出のみが眼目ではなく、誰もが抱えているだろう人の口惜しみを湛えている句である。
「あとがき」にその姿勢は明確に語られている。

  私は人を殺し、殺される戦争など大嫌いだが、その戦争のために、人間の思想の自由、表現の自由、行動の自由を束縛されることが何より許せない。
 私は私の書く自由を誰にも犯させない。
 私は表現のための立ち位置を一歩たりとも退かない。 
 これは表現者としての私のゆずることの出来ない意志であり姿勢である。

田中千恵子は1945年12月19日中国山西省生まれ。日本の戦後七十年は、何よりも田中千恵子の人生と重なっている。

以下にいくつか感銘句を挙げておこう。

    どどどどど
     沖縄
     どどど
    どどどどど

   太陽に見せたい涙だってある
   ルージュ最後の紅は今日逝く人に塗る
   もぐりこむコンビニエンスの灯が羊水
   特攻像建てて「円」呼ぶ島起こし
   戦争が吹雪いている水木しげるの片腕に
   しける海から孵化するにおい戦争が
   したいしたい戦争がしたい浮いてこい
   全身新樹の九条筋(きん)です終戦っ子




                   モミジバスズカケ↑

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