日原正彦『てんてまり』(ふたば工房)はちょっと珍しい句集だ。序文、跋文、略歴が無いのは、まだうなずけるとして、全句が新聞、雑誌、テレビなどの「俳句」欄での入選句を集めたものだという。それらの事情を「あとがき」から拾うと、
句作は一九九八年頃から始めましたが、結社や同人誌にはどこにも属しませんでした。ここに集めた句は、その間に新聞、雑誌、テレビなどの「俳壇」で入選(特選、秀逸、佳作)したものばかりです。たくさんの俳人の方々に選んでいただきました。
とある。略歴はないものの、
山茶花や散らばる午後のランドセル 正彦
放課後の黒板黙す日短
五限目の休み時間の日向ぼこ
私語多き授業を終へて秋の風
転校生とんぼの風の中より来
秋晴れやゼロの起源を講義中
などの句を読めば、教師らしい。また、「
禁煙の部屋を出て吸ふ寒さかな」をみると喫煙者なのだろうとも思ったりする。
句はとりあえず、俳壇の諸先生方の選を経ているので、俳句のかたちがおのずと書かせた(詠ませた)句で、過不足なく出来ていると言えよう。ただ、句集全体としては、歴史的仮名遣いよりもむしろ現代仮名遣いで句を書いた方がより句の心のありようが、よりよく読者に伝わる句が多いのではないかと思った次第。
ともあれ、いくつか愚生好みの句を挙げさせていただく。
呼気吸気呼気吸気呼気あげひばり
よきかをりはなちさうなる金魚かな
短夜や開けば喋りだす雑誌
昼寝覚しばらくさぐるわが命
唇のつひに開かず花野過ぐ
父と子の父には速い雪が降る
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