2016年6月22日水曜日
山﨑百花「身の錆の水に溶けざる涼しさよ」(『五彩』)・・・
山﨑百花『五彩』(現代俳句協会)は彼女の第二句集である。がしかし、第一句集はまだ日の目をみていない。原稿が某版元に眠ったまま序文待ちだと聞いたことがある。従って『五彩』は第二句集ながら、昔風にいうと処女句集である。
本句集の序文は松浦敬親。序文そのものが、優れて、現代俳句論であり、芭蕉論、山本健吉論、桑原武夫論にもなっている。その最後に以下のように餞している。
最後にもう一つ。文学の言葉は自他との血みどろの戦いによって獲得するものである。だから、それを百花さんに強いたりはしない。虚子がしたように、第二芸術やそれ以下の現実にたっぷりと根を張り、そこから、豊かな養分を吸い上げて、時々第一芸術の花を咲かせる道もある。悩んだら、そう言って居直るといい。その方が長続きするし、文章力もつく。百花さんには文章の才能もあるので、これが一番よい道だろう。そうやって思いを深化させ、その深化を俳句の言葉として持ち帰った時、俳句は文学になる。
句集の装丁(小島真樹)も落ち着いた感じで良いものだが、挿画は「豈」同人でもあり、早逝した長岡裕一郎、感慨深い。それに本句集はよくある句集のように、四季別になっているが、何よりも歳時記の分類に従って、さらに時候、天文、地理、生活、行事、動物、植物の項目に分けてある。そして、雑の部立もある。それを、松浦敬親は、
「俳句で発句を含む歌仙の内容をすべて扱う道」ということになる。従って、歌仙の一句一句を独立させたような多様な句が並んでいる。巻末の「麻風(まふう)賞」(俳誌「麻」を創刊した菊地麻風を記念した賞。30句競詠)の応募作品8編は「歌仙のように、連作や群作で行く道だ」。一句一句が独立していることは言うまでもないが、30句全体でそれ以上の何か(思想や世界観など)が醸し出されていれば、作品として成功だ。
と解説する。そのようにみて、百花作品の成功率は高い、と思う。よろこばしいことだ。まだ見てはいないが、幻の第一句集より、きっと、この第二句集の方が優れているにちがいない、と思わせる。
ともあれ、以下にいくつか、句を挙げさせていただこう。
山﨑百花(やまざき・ももか)、1947年、青森県弘前市生まれ。
死してなほ骨立ちあがる敗戦忌 百花
ロザリオ祭長子も末子も母は愛す
見上ぐれば日のある不思議昼の虫
悲しみに添へぬ悲しみ梨を剥く
弟切草倒れ易くてたふれたる
ミトコンドリアにイブの血の濃さ寒卵
体力のこのあたりから風邪といふ
冬木の芽みな大空を胎として
大夕焼地球はいまも燃ゆる星
競泳の水着にもあり進化論
星飛ぶや人に地上の願ひごと
一灯へ集まる雪の五彩かな
壊れゆく母とは我か浮氷
仏眼や澄む水に日矢たちてをり
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