2016年8月30日火曜日
三橋敏雄「実に少しづつ核汚染秋の風」(『定本 三橋敏雄全句集』)・・・
『定本 三橋敏雄全句集』(鬣の会「風の冠文庫」・税込2500円・限定400部)の刊行がなった。林桂と「鬣」の同人諸氏の奮闘による。敬意を表したい。
その編集後記には以下のように記されている。
所謂戦後派と言われ、しかるべき仕事をして亡くなった俳人の生涯の全句集が纏められてきている。三橋敏雄もしかるべき存在として、その刊行を鶴首していたが、その様子なく、ついに痺れをきらして刊行当事者のひとりとなることとなった。晩年は人気作家であり、生前に『三橋敏雄全句集』(一九八二年)『三橋敏雄全句集〈増補版〉』(一九九〇年)と、二度にわたり全句集が刊行されたことも、あるいは、それ以降をも纏めた生涯を俯瞰する全句集の刊行の必要性を希釈してしまったのかもしれない。しかし、戦中から少年俳人として登場していた、最も長いキャリアを持つ戦後派の俳人として、三橋は、その仕事を俯瞰する必要がある。そして、そのためのテキストは是非とも必要であろう。
現に、このテキストを編みながら、自分は三橋の一面しか見ていなかったのではないかと、しきりに思われたのである。
これで、三橋敏雄の句業の主要な全貌を俯瞰することが出来るようになった。文庫版ではあるが、今後の俳句を担うであろう若い人たちにも手がと届く値段である(三橋敏雄にとっては、若い人などという意識はなく、つねに作品制作上のライバルという意識であったと思うが・・・)。著者生前最後の句集『しだらでん』以後の紙誌に発表された句のなかから以下にいくつかを引用しておきたい。
日の紅葉月の紅葉となりにけり
キューと亀鳴いていたる事実誰に告げむ
理心流使手の祖父鬢寒し
一滴もこぼさぬ月の氷柱かな
寒明くる闇の宇宙は闇のまま
生まれ合ふ五月蝿(さばへ)や見えぬ核汚染
敗戦は豫(かね)て当然終戦日
安産の後の空腹麦の秋
はんざきのひそむ山川なまの水
被爆地の夜夜をひとだま弱り絶ゆ
地球から見えざる地球去年今年
寝ては起き歩き駈け坐し去年今年
(辞世)
山に金太郎野に金次郎予は昼寝
三橋敏雄(みつはし・としお) 1920(大9)年11月8日~2001(平成13)年12月1日。東京府八王子市生まれ。
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