中原道夫第十二句集『一夜劇』(ふらんす堂)。句集巻尾に置かれた句群は、パリの同時多発テロの直後にパリに滞在して得た句であるという。
ともあれ五日間の滞在の中で、結果として最後の方に措いた参拾参句を得た。帰国してからの日常へ戻った句は、どうも白け、無残で入集するのを止めた。尻切れ蜻蛉のやうだが、最後の句で白昼夢が醒めたと思つていただきたい。
あれだけの犠牲者を出しても、パリ市民は「テロに屈しない」と言つてのける。「叩き返せ」声は聞き漏らしたが。これが旧くから覇者となりヨーロッパ世界を統べてkた民族のぺライドといふものだらう。実に冷静、私の句の方がパセティックに過ぎたかもしれぬ。「あとがき」より(本文は旧仮名・正字)。
いずれにしても、こういう衝撃が句をなす原動力、性と観念し、詠む勇気を作家魂というのかも知れない。ともあれ、集中の感銘句の中からいくつかを挙げよう。
耳垢は風聞の利子萬愚節
鈴木鷹夫氏逝去
水仙の美学一本通し逝く
亜細亜といふ汗し雑交する臭気
膝下といふ饐えやすき処(とこ)
蚊に知れる
鬼胡桃鬼の棲むには手狭なる
屁の玉を手囲ひに年つまる湯に
ケロイドといへども膚(はだへ)廣島忌
アイロンかけ苦手草むしりならやるわ
さうすれば良いと菊なと切りくれし
むなしいといふは炬燵寝覚めてより
死とともに敵意砕ける冬の薔薇
新聞・TVでは自爆テロのことを¨KAMIKAZE”と
日本の特攻隊の名を使用
神在にKAMIKAZEの咲く狂気かな
着膨れの私娼なら間にあつてゐる
中原道夫、1951年新潟県西蒲原郡生まれ。
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