2016年11月8日火曜日

中原道夫「昇天の手續きもなく自爆・冬」(『一夜劇』)・・・



中原道夫第十二句集『一夜劇』(ふらんす堂)。句集巻尾に置かれた句群は、パリの同時多発テロの直後にパリに滞在して得た句であるという。

 ともあれ五日間の滞在の中で、結果として最後の方に措いた参拾参句を得た。帰国してからの日常へ戻った句は、どうも白け、無残で入集するのを止めた。尻切れ蜻蛉のやうだが、最後の句で白昼夢が醒めたと思つていただきたい。
 あれだけの犠牲者を出しても、パリ市民は「テロに屈しない」と言つてのける。「叩き返せ」声は聞き漏らしたが。これが旧くから覇者となりヨーロッパ世界を統べてkた民族のぺライドといふものだらう。実に冷静、私の句の方がパセティックに過ぎたかもしれぬ。「あとがき」より(本文は旧仮名・正字)。

いずれにしても、こういう衝撃が句をなす原動力、性と観念し、詠む勇気を作家魂というのかも知れない。ともあれ、集中の感銘句の中からいくつかを挙げよう。

   耳垢は風聞の利子萬愚節
      鈴木鷹夫氏逝去
   水仙の美学一本通し逝く
   亜細亜といふ汗し雑交する臭気
   膝下といふ饐えやすき処(とこ)蚊に知れる
   鬼胡桃鬼の棲むには手狭なる
   屁の玉を手囲ひに年つまる湯に
   ケロイドといへども膚(はだへ)廣島忌
   アイロンかけ苦手草むしりならやるわ
   さうすれば良いと菊なと切りくれし
   むなしいといふは炬燵寝覚めてより
   死とともに敵意砕ける冬の薔薇
      新聞・TVでは自爆テロのことを¨KAMIKAZE”と
      日本の特攻隊の名を使用
   神在にKAMIKAZEの咲く狂気かな
   着膨れの私娼なら間にあつてゐる

中原道夫、1951年新潟県西蒲原郡生まれ。




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