高橋比呂子「豈」同人にして「LOTUS」同人。青森市生まれで攝津幸彦と同年。『つがるからつゆいり』(文學の森)は第四句集になる。
最新の「豈」(邑書林発売)58号には、創刊35周年を記念して各同人の代表句10句が掲載されているが、その冒頭の句は、
夏岬 原体験は球である 比呂子
本句集からも自選句として、代表句にかなり入集されている。2,3句挙げてみよう。
一日と、三日七日と飛花落花
ぽすとからとぽすまでの冬銀河
蘭奢待ゆきもかえりも吹雪かな
愚生の不明にして「蘭奢待」のことはよく知らなかった。広辞苑によると「聖武天皇の時代、中国から渡来したという名香。東大寺正倉院宝物目録には黄熟香とある。『蘭奢待』の字には「東大寺」の3字が隠されているという。別名東大寺」とあった。読みは「らんじゃたい」。
著者「あとがき」には、本句集の表現意図が記されている。
言葉同士の絡み合い、関係性、言葉のリズム、音韻の響き、意味性、それらとの衝撃。『つがるからつゆいり』は、これまでよりも、言葉の関係性にシフトしてみた。別にこれが新しい方法なわけではなく、これまでもつちかわれてきた方法である。私なりの世界が出はしまいかと願っている。
ともあれ、旺盛な創作欲に敬意を表して、以下にいくつか挙げておこう。
無数ならもっとながれる芒種かな
降雪や平均律とはほど遠く
陸奥湾に風花産卵しつつ消ゆ
虚空から紐垂れてくるはるの海
みちのくは釦ならべてかぞえて遠し
と、ゆすり蚊とゆりうすと
羅や闇よりも濃くあいにゆく
紀の国のきぬたかんたんいささかいささか
因みに、表紙装画も著者、瀟洒な装丁は三宅政吉。
クロガネモチ↑