竹岡江見第三句集『先々』(邑書林)、序に小川軽舟は言う。
先々の面白からむごまめ噛む 江見
私がこの句から句集名をとることを江見さんに勧めたのは、この句が江見さんの姿勢をよく表していると思うからだ。そろそろ人生の最終カーブに差し掛かって、なおそのカーブの先に何が見えてくるのか。ごまめを噛みながら、江見さんの目は爛々と輝いている。
この句集は江見さんの目が捉えたこの世に生きとし生けるものの哀歓に満ちている。
なるほど、そう思う。だが、それだけではない、生き抜く勁さやユーモアが伺われる。例えば、同門の飯島晴子に
「蛍の夜老い放題に老いんとす」の句があるが、その答えは、
思ふさま生きよ泰山木の花 江見
なのである。「あとがき」の締めには、
六十年間営んできた医院を去年閉院し、今年九十三歳となりました。句友の皆様方と句会を楽しみ、今も元気でおります。
湘子先生、軽舟先生、「鷹」の皆様、ありがとうございます。
とあり、清々しい。ともあれ、以下に愚生好みの句をいくつかあげておきたい。
春闘やマニキュア赤き手を挙ぐる 江見
皺の手に幼子診たり雛の日
幽霊の扮装涼しこんばんは
老いらくの華やぎや白曼珠沙華
みんな死ぬ野塘菊(あれちのぎく)
に風見えて
烏兎匆匆団地となりし芒山
枯すすむものに種あり空があり
情死絶え孤独死増えぬ雪厚し
月光をつめたく許し螢とぶ
愛すべき男我儘夕焼けて
夫逝きし年の極月鳶の笛
わがまとふ正気と乱気土用波
浦の春国旗につづき大漁旗
竹岡江見(たけおか・えみ)大正十三年生まれ。
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