2017年5月19日金曜日

金行康子「ゲルニカの前に園児の夏帽子」(『母より』)・・



金行康子句集『母より』、エッセイ集『母より』(緑鯨社)は、二冊の文庫本仕様である。句集装画は駒井哲郎、エッセイ集装画は銅版画・彼方アツコ。句集名は、

  冬深むつくづく母より生れしこと   康子

句に因む。エッセイ集の方の「あとがき」には、

 平成十九年にエッセイ集『母をめぐる・・・』を出しましてから十年がたちました。母を見送りました。その前後の何篇かを残しておきたいと思い、緑鯨社の柴田さんにお願いを致しました。

とある。33編のエッセイが収められているが、「母をめぐる」の章は、とりわけ心に響くものがある。もちろん、他に「俳句・本・あれこれ」「くらしのなかで」の章もある。愚生は俳人だから、自然に「俳句・本・あれこれ」の章に目がいくのだが、桂信子についてや「俳人の生き方」の項では、瀬戸内寂聴のことに触れながら、ともに「春燈」の俳人であった稲垣きくのと鈴木真砂女について述べ、「どちらの人生に寄り添うか、と聞かれたら私なら稲垣きくのを採る」と言い、

 今、二人のどちらかと珈琲を飲むとしたら私は稲垣きくのさんにする。きいてみたいことがあまたある。想念の中で冷めた珈琲をひとくち啜る。窓外は、雪がますます激しい。

と記すあたりは、著者の好奇心のありようを窺えて興味深い。エッセイも句も良く、金行康子の生き方をよく表現していよう。句集の序文は山本つぼみ(「阿夫利嶺」主宰)、その句集のなかからいくつかの句を以下に挙げておきたい。

  喜雨一刻まさかの時の荷はふたつ    康子
  風耽は賢治の俳号桜降る
  冬深み尾のあるものを愛しめり
  水芭蕉まだ花でなく葉でもなく
  冬の夜足音までが母に似て
  パリにテロけふ黄落のすさまじき
  遠霞異国となりしままの島
  針穴に春待つひかりとほしけり 

金行康子(かねゆき・やすこ)1950年、北海道新十津川町生まれ。




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