前川弘明第5句集『緑林』(拓思舎)、著者「あとがき」に以下のように述志されている。
俳句を詠むということは、基本的に有季定型という俳句の器に依って詩を書くということであるが、詩の心はいつも俳句の器から溢れようとする。だからそれを堪(こら)えなだめつつ器のなかに収めようとするのだが、なかなか思うようにいかないときがある。そのようなときは詩の心のために定型の器に少々の余裕を許して俳句を書く。とにかく、作品は通俗であるまいとおもう。そして平明でありたい。
愚生のようにすでに詩心枯渇している者にとっては、いささか羨ましいような気のする心ばえである。その意味では、ブログタイトルに挙げた「小春日の女神は青い笛を吹く」は、いまだ若々しい詩心溌剌たるものがある。通俗におちいらず、句に深みがあり、かつ平明であることは実に難しい。
句集名となった「緑林」もただに木の葉青々として、青い林ということだけでもなさそうである。前川弘明なら、中国史書による窮民を緑林山に集め群盗となった、こともまた示唆しているのではなかろうか。詩心には善のみが宿るわけではない。しかし、この緑林の群盗には義賊のにおいもしないではない。
ともあれ、以下にいくつかの句を挙げておきたい。大根洗う地球の暗闇から抜いて 弘明
寒林を出る水滝になりにゆく
なんじゃもんじゃの花咲き被爆者我が住む
金雀枝やどこへともなく人の列
雷鳴がピアノの上を通りけり
葉先まできて空蝉になりました
林檎紅し今朝のちからにて掴む
眠るまで止まぬつもりの雪がふる
前川弘明(まえかわ・ひろあき)、1935年長崎市生まれ。
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