榎本とし遺句集『筍飯』(榎本好宏編・航出版)、集名の由来は、疎開先の句会で母・榎本としが特選の賞としてもらった短冊、林浩平「
帰り待つ筍飯に布かぶせ」の句に拠る。母は帰郷するまでこの句を床柱に掲げていたという。榎本好宏の父・錥男はアッツ島で玉砕していた。編者は、
私がずっと思い込んでいたのは、「帰り待つ」は、帰ってくるはずのない父が、もしかして帰ってくるかも知れないと、そして「筍飯」は、私と弟二人のことで、「布かぶせ」はこの三人を「私が守っていますよ」の意だろうと、私も成長するに従い、そう思うようになっていた。しかし、母にはそのことについて、一度も問いただしたことはない。
と記している。そして、榎本好宏は大学を出、忙しい新聞社勤務で母とゆっくり話す機会がなかった。「杉」創刊の話を、母の俳句仲間の猪俣千代子から聞き、
俳句から遠ざかっていた私も、母と共通の話題が持てるからと思い、親子で一緒に「杉」に入会した。この句集に入集した作品は、「杉」に発表した作品の中から選んだ。また二十年余の作品を「杉」から抜き書きしてくれたのは、私の娘に臼井由布だった。母が生きていればきっと喜んでくれたに違いない。
とも述べている。母没後十年、句姿の美しい榎本としの遺句集である。以下にいくつかの句を挙げておきたい。
奥深に金色寒き仏具店 とし
桐の花越後に夕日見ず終ふ
駅の名に小海日照雨(そばへ)
のうまごやし
五臓ややよみがへるやにつばくらめ
道おしへゐておろそかに通られず
牡蠣小屋を通り抜けして西日あり
道聞くに種蒔く人を止めにけり
七月や逆さ別れの子の忌くる
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