2017年8月29日火曜日
秦夕美「仮の世やまた踏みしだくねこじゃらし」(『秦夕美句集』)・・
現代俳句文庫『秦夕美句集』(ふらんす堂)、かつて株で儲かった金で毎年句集を出していた。株に因んだ句集『歌舞と蝶』もある。エッセイを合わせると著作は三十冊を超える、いやもっとはるかに多いかも知れないが、きちんと数えたことはない。
この度の句集において、秦夕美の来し方のおおよそは知れるだろう。
秦夕美は覚悟の人である。収められたエッセイ「去年今年」を読んで、改めてその思いを深くした。また、貴重な吉井瑞魚「秦夕美論」(昭和41年12月「鷹」11月号)は当時19歳から20歳代の、いわば初学時代を描いてあますところがない。最初から文学少女であり、言葉を使う巧みさに優れていたことがわかる。それらは、まぎれもなく秦夕美の身体感覚だったのだ。それは、何に対峙しても、常に身にまとわれた覚悟を思わせる。
落暉いま花野の芯をめざしけり 夕美
思えば愚生が最初に秦夕美の名を記憶したのは、赤尾兜子「渦」の誌上だった。その頃は、高山夕美であった。今では愚生と同じ「豈」同人であるが、もとはといえば大先輩の姉貴分である。当然「豈」には欠かすことのかなわぬ重鎮である。九州の地にあって端然とし、個人誌「GA」を発行し続けている。端整な夢を生き続けている秦夕美は美しき傘寿を迎えるらしい。収録されたどの句を挙げても遜色はないが、ここでは愚生好みの幾つかをあげておこう。
晩夏光仮面にかはる仮面なし
廣島や背凭れのない椅子ならべ
今生の髪とけてゆく春の雁
花ざくろ老いても陰のほのあかり
地獄絵に降る金の雪銀の雪
十六夜に夫を身籠りゐたるなり
競馬(くらべうま)おくれて夢の馬駆ける
生きてまたつかふことばや初暦
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