2017年9月11日月曜日

金原まさ子「螺旋階段のぼるとき胸鰭をつかう」(『昭和・平成を詠んで』より)・・



 栗林浩『昭和・平成を詠んで』(書肆アルス)には「伝えたい俳人の時代と作品」の副題がついている。その意味は目次をみるといっそう明らかになる。収録された俳人は次の通り相当に高齢の方々ばかりである。中で一番若い俳人が大串章79歳であり、次に池田澄子80歳である。以下に収録俳人をあげておくと、金原まさ子105歳(行年106)を筆頭に、後藤比奈夫、金子兜太、伊丹三樹彦、小原啄葉、勝又星津女、木田千女、橋本美代子、橋爪鶴麿、依田明倫、柿本多映、星野椿、黛執、有馬朗人、大牧広、友岡子郷、池田澄子、大串章。
 本著をすごいなと思うのは、雑誌のシリーズ企画などではなく、著者・栗林浩が身銭を切って、すべての方々にインタビューして内容を構成していることである。余人には出来がたいことである。その労たるや愚生の想像を超えている。
 ブログタイトルに挙げた金原まさ子の句は、昨年末に発行した「豈」59号に、招待作家として発表された「から騒ぎ」と題した20句からのものである。丁寧にも栗林浩がそれを拾ってくれているのだ。実は、現在編集中の「豈」60号にも作品依頼をしていたのだが、それはかなわず、つい先日、6月27日に逝去された。毎号の「豈」には無理を言って作品をいただいていたが、俳句作品の鮮烈さにおいて、まったく100歳をとうに超えたとは思えないものだった。さらに失礼をも承知で、第4回攝津幸彦記念賞選者をもお願いしたが、それはさすがに、いつ発行されるとも分からない「豈」にはとうてい無理なお願いであって、さすがに丁重に御断りがあった。しかし、いつも恐縮していたのだが、「豈」への掲載作品の号が出るたびに、美しい、じつにしっかりした筆運びの文字で書かれた御礼の便りをいただいていた。見事だった。
 また、装幀に使用された糸大八の絵(片山由美子所蔵とあった)も、久しぶりで糸大八に会った気分で、嬉しいことだった。
ともあれ、以下に金原まさ子の作品の幾つかを本書より孫引きで挙げておこう。

  ひな寿司の具に初蝶がまぜてある       まさ子
  ヒトはケモノと菫は菫同士契れ
  エスカルゴ三匹食べて三匹吐く
  ああ暗い煮詰まっているぎゅうとねぎ
  身めぐりを雪だか蝶だか日暮れまで
  鶴に化(な)りたい化りたいこのしらしら暁の
  別々の夢見て貝柱と貝は
  にこごりは両性具有とよ他言すな

栗林浩(くりばやし・ひろし)、1938年、北海道生まれ。



   

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