2017年11月1日水曜日

打田峨者ん「亡き父に似たり 誤嚥の咳払ひ」(『骨時間』)・・

 

 打田峨者ん第4句集『骨時間』(書肆山田)、帯には「俳句とその余白のまじりあう/言葉の汽水域の消息ー251章」とあるが、様々な表記、また手法は、各章ごとに著者の構想のもとに描かれているので、「「251章」と記されているが、いわゆる俳句の数で数えると全251句である。以下に記す二篇の献辞が捧げられている。

  いちご
  さかえた
  なべのした
  ガリガリ
        或る昔語りの結句(水沢謙一・録)
       *
  おれは 歌だ
  おれは ここを 歩く
        北米先住民の口承短詩(金関寿夫・訳)

  巻尾の少しばかり長い最後の章「ワレンベルグ辺境伯領滞在記」の自註には、

 (前略)同年五月末、脳梗塞の一種ワレンベルク症候群(延髄外側症)を発症。最大の症状は嚥下(えんげ)障害ー即ち、飲み喰いの完全不可。(中略)
 半月後リハビリ病棟へ移る際に、ドクトルより胃瘻の手術を奨められるも是を拒否。と言うのも、胃瘻処置を施すと、咽喉や食道の自律機能が失われる事が多いと以前に聞いていた爲。
 二週間ほど経った或る晩、舌をうるおすだけの爲に口に含んだガラナ系炭酸飲料(向かいのスーパーの見切り品)、その二口目がスッと喉の閾をクリアーしてしまった。ー約一ヶ月ぶりの喉越(のどごし)感覚!治った(事を確認できた)瞬間であった。

とあった。著者は2014年『光速樹』を上梓してから、毎年一冊句集を上梓している。その膂力には敬意を禁じ得ない。俳歴は26年とあったが独学のようである。世に多くいる俳人とは違う独自の境地、独自の作風を確立している。ともあれ、いくつかの句を以下に挙げておきたい。

    昭和六十四年・西暦一九八九年ー歳
    旦賀状変(官公庁方面や亦如何に?)
  昭和あやうし元号のなき初だより
  「崩御」否「ご逝去」の春 沖縄二紙
  
    四月一日・三鬼忌 四月二日・光太郎忌
  花の国 西東忌明け高村忌
  透視図法 消尽点に春の蝿
  蛇女房 種火を欠(キ)らし火を産めり
    架蔵の女神ら持ち出し厳禁!
  ビュッフェ画集に剥(へ)ぎ痕ありて昼の月  

打田峨者ん(うちだ・がしゃん)1950年東京生まれ。略歴に、俳諧者、乱筆俳画者とある。



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